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[研ぎ澄まされた視点に基づくダイナミックな仕事:秋山忠右『国境流浪』『NIPPON AIR SCOPE』『TOKYO AIR SCOPE』/日本カメラ1999年3月号:162]


 文庫版で、さまざまなヴィジュアル・イメージを発信している「京都書院アーツコレクション」から、秋山忠右の写真集が再編され、続けて登場している。

国境流浪〈上〉東西ヨーロッパ・カリブ (京都書院アーツコレクション) 国境流浪〈下〉西アフリカ・東南亜細亜 (京都書院アーツコレクション)

 『国境流浪』(上・下)は、ハードボイルド小説で知られる北方謙三との、「東西ヨーロッパ流浪」「カリブの熱と風」「西アフリカ三都物語」「東南亜細亜北垂行」の、4部からなる旅を収めた共著。

 平和にみえる時代のなかで、あえて国境という力がせめぎあう場所を求め、地球上をさまよう、冒険とも呼ぶべき男の二人旅が、パワフルな秋山の写真と、ダンディな北方の文章によって刻まれた本書は、ありがちな海外放浪のドキュメントとは一線を画したリアリティに満ちている。

 本書のベースとなっている取材は、1987年から90年にかけてなされたものだが、今日あらためて出版された本書が、いささかも新鮮味を失っていないばかりか、この混迷する時代のなかでいっそう輝きを増しているように見えるのは、この旅が、確かな二人の表現のキャリアと、それに甘んじることのない好奇心に、裏打ちされたものであるからに違いない。

Nippon Air Scope―鳥のように風のように (京都書院アーツコレクション) Tokyo Air Scope―空中に三脚を立てる (京都書院アーツコレクション)

 そうした秋山の力量を、違った角度から感じさせてくれるのが、『NIPPON AIR SCOPE』と『TOKYO AIR SCOPE』。

 空中から、日本、東京の隅々までを、自由自在に、そして克明に写し取った本書は、ふだんはけっして見ることのできない視点から、私たちが今どんな場所に住み、生きているのかを体感させてくれる。

 『NIPPON AIR SCOPE』では、大阪城、金閣寺、室生寺、江ノ島、箱根、長崎オランダ村、阿蘇山、大雪山といった名所から、都市や住宅地までが、そして『TOKYO AIR SCOPE』では、浅草三社祭り、上野公園の花見、青梅マラソンといったイヴェントから、皇居、都庁、ディズニーランドといったなじみのスポットまでが、絶妙の距離とアングルで捉えられており、読者は、ユニークな景観を楽しみながら、自らが住む場所の在りようを再発見していくに違いない。

 たんなる空撮にはとどまらない、写真家が独自の視点で日本、そして東京を捉える、このような壮大なプロジェクトは、なかなかお目にかかることができないものだけに、たいへん貴重なものでもあるだろう。

 ところで、こうしたダイナミックな仕事のいっぽうで、秋山がデビュー当初から、東京という街の“今”を、その変容とともに、粘り強く捉え続けていることを忘れてはならないだろう。なぜなら、そこでの作業こそが、このような仕事における、研ぎ澄まされた視点を鍛えてきたように思われるからである。