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[ナン・ゴールディン初の日本語版写真集:『COUPLES AND LONELINESS』/日本カメラ1999年1月号:115]


Couples and Loneliness  本書は、1990年代を代表する写真家の一人であるナン・ゴールディン(Nan Goldin)による、はじめての日本版写真集である。初期から最新作まで、未発表作を含めて本人が再編しているので、けっして大冊ではないが、ゴールディンの世界のエッセンスを充分に味わえるものに仕上がっている。

 セックス、ドラッグ、エイズ、ドラッグ・クィーンといったモチーフを扱った彼女の作品は、96年にニューヨーク、ホイットニー美術館で回顧展が開催されたことに象徴されるように、そのいささかスキャンダラスなテーマに対する関心にとどまることなく、今日、表現としてきわめて高い評価を獲得するにいたっている。その理由の一つは、ゴールディンの作品が、とても率直なことであろう。彼女は、こう言っている。

 「誰かの写真を撮ることは、その人の心に赤ちゃんみたいに無垢になって触れるということなの。私にとっての写真はやっぱり性的願望からくる行為だし、それは多分セックスをすることにすごく近いと感じるわ」

 90年代を代表する、ということは、20世紀の終わりを代表する、ということでもある。こうした性的な比喩によって語られる率直な姿勢が、20世紀の終わりを代表する表現でもあることは、思いのほか重要なことを含んでいるだろう。それは、単純化を恐れずに言えば、20世紀の表現そのものが、性的な比喩に彩られたものでもあったということである。こう考えるとき本書は、写っているものが興味深いだけでなく、人間や表現の真実を告げる写真集としても浮かび上がってくるのではないだろうか。