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[20世紀映像文化の美の桎桔を未来へと読みとく指標としてのレニ・リーフェンシュタール:『レニ・リーフェンシュタール/20世紀映像論のために』紹介/アサヒカメラ1999年12月号:179]


レニ・リーフェンシュタール―20世紀映像論のために  写真集『ヌバ』や、自伝『回想』の日本語版の出版、また、日本での写真展開催などを通して、レニ・リーフェンシュタールは、私たちにとっても、比較的なじみ深い作家になっていると言えるだろう。しかし、ナチとの関係を問われながら、なおも執拗に映像美を探求しつづけている、リーフェンシュタールの波乱に満ちた人生と作品との関連については、情報が断片的なこともあり、充分に理解されているとは言い難いのではないだろうか。

 ベルリンに生まれ、ダンサーから女優へ転進し、ヒトラーの庇護を受け映画人になり、戦後はナチとの関係を追及されながらも、アフリカのヌバ族や海中をテーマに写真家として復活した生の軌跡、そして『意志の勝利』『オリンピア』といった映画作品の詳細な分析、それらを通した、映像美学の考察によって構成されている本書は、リーフェンシュタールの人生と作品をトータルに見直した力作であり、彼女についての理解を深める大きな助けになる一冊である。

 本書において、とりわけ示唆に富むのは、リーフェンシュタールの映画作品から写真作品まで共通してみられる、美的非日常への執拗なまでのこだわりを明らかにしつつ、政治性と芸術性を分けてリーフェンシュタールを評価するような従来の視座を退け、その混在にこそ、20世紀の美学に通底する問題があることを明示していることだろう。

 なぜこのことが重要なのか。「自分は政治には関心がなく、美を追究しただけだ」というリーフェンシュタールの弁明は、20世紀後半において、写真や映画をはじめとした現代表現の慣用句として変奏され続けており、この意味で私たちもその問題とけっして無縁ではないからである。