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[表情の輝きに賭けたプロマイドという手法、マルベル堂史が一冊に:『マルベル堂のプロマイド』紹介/アサヒカメラ1999年3月号:115]


マルベル堂のプロマイド  本書の題名を見て、「プロマイド」?、と思われる方も多いのではないだろうか。

 こうした疑問に答えるかのように、本書は、「どうぞ、ブ(傍点)ロマイドではなく、プ(傍点)ロマイドと呼んでください」、という一行からはじまっている。詳しい説明は本書に譲るとして、「印画紙の名前がブロマイドであり、ブロマイドという紙で焼いた写真がプロマイド」、というこだわりにこそ、大正10年(1921)創業、77年間の歴史のなかで、およそ9万版のプロマイドを所有する、マルベル堂の自負が凝縮されていると言っていいだろう。

 77年間と言えば、写真の歴史の半分を占めるほどの年月だが、本書は、そのなかから選りすぐったベストショットと、数々の興味深いエピソードによって編まれている。登場する面々には、裕次郎、旭、圭一郎、小百合、ルリ子、錠などの日活スター、美空ひばり、岡田奈々、西城秀樹、三浦友和、山口百恵などの歴代のアイドル、佐藤栄作、力道山といった異色の有名人、と、誰しもわくわくしてくるような名前が連なっている。

 しかし、本書をたんに面白いだけではおわらない、一つのユニークな文化史たらしめているのは、やはりマルベル堂が貫いてきた独特のこだわりだろう。「プロマイド調を死守」「カメラマンは早撮りが命」「一発必撮」「上手に修正」といった、反=芸術的とも言える「マルベル堂の法則」こそが、一つの文化を築き上げたことの内には、容易にみえて、じつは困難な、職人芸としての写真の姿が浮かび上がっているように思えるのだ。