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[フィルムとカメラの技術革新と企業戦略で写真史の原動力を読む:『フィルムとカメラの世界史』紹介/アサヒカメラ1999年1月号:158]


フィルムとカメラの世界史―技術革新と企業  ふつう、写真史と言ったとき、何を想像するだろうか。ほとんどの場合、写真家の連なりによって語られる作品史であろう。しかし、カメラ、レンズ、フィルムといった機器に多くを負う、写真というメディアの性格を考慮するならば、そのような作品史のみでは語りつくせない部分が多いのも事実である。

 1830年代終わりから、1920年代終わりまでという、限られた範囲とはいえ、カメラやフィルムがもっとも劇的な変化を遂げた、写真発明からのおよそ100年間の技術の変容を描いた本書は、そうした作品史からはけっして見えてこなかった、メディアとしての写真の歴史を、鮮やかに照らし出している。

 銀板写真(ダゲレオタイプ)から湿式コロジオン法、ゼラチン乾板、ロールフィルム、映画へという技術革新の流れは、写真が産業として徐々に市場に姿をあらわし、社会や文化にも、大きな影響を与えるようになるメディアに成長していく過程でもあった。豊富な資料をもとに、そうした技術革新の本質を明確に分析し、かつ、その細部にまで踏み込んだ本書からは、写真産業のダイナミックな変容が、ありありと伝わってくるだろう。

 また本書は、いっけん遠い過去の物語のようにみえるかもしれないが、けっしてそうではない。技術を大衆化させながら、企業と経営者たちが鎬を削り合い、写真が市場を形作っていく姿は、コンピュータを中心とした、今日のニューメディアの姿のルーツそのものだからである。

 専門的な内容も扱っているものの、著者の書き口は一般的な読者を想定した平易なものなので、400頁をこえる大冊にもかかわらず、こうした興味深い変容を追っていくうちに、ひといきに読めてしまうに違いない。