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[BOOK REVIEW:新着写真集紹介/nikkor club #166 1998 autumn:90-91]


 『ジャパン』は、1980年の鮮烈なデビュー作『FLASH UP』から今日に至るまで、大胆な撮り口で都市をスナップ・ショットし、都市のリアルな姿を捉え続けている倉田精二氏の、70年代から90年代にかけての仕事を編んだ写真集です。
 倉田氏が日本を撮った写真集は、デビュー作、『フォト・キャバレー』、『80´s FAMILY』と、これまで3冊出版されており、いずれも人気が高いにもかかわらず、現在では絶版になってしまっていますので、それら3冊の再編とも言える本書は、待望の1冊と呼びうる写真集でしょう。
 社会、政治、風俗から、日常的なモチーフまでを、肉薄して切り取る倉田氏の写真は、ともすればその迫力に満ちたイメージゆえに、スキャンダラスでパワフルな側面のみが強調されてしまうきらいもありますが、70年代からこうした仕事を続け、現代の写真表現にも大きな影響を与え続けてきたのは、倉田氏の写真がけっしてそれだけに終るものではないからでしょう。倉田氏は、本書について次のように述べています。
 「四半世紀の写歴のなりゆきで、別回路を巡るテーマとの関係において、本書は迂回と曲折があるとしても、日本国内の時空間におけるストリートフォトのほぼ集大成として類別されよう。つまり、カメラが結像したもう一つの現実を、表象文化のごく日常の慣習風俗に合わせてとりあえず脈絡を整え、解読されることを待つ諸形式化の意味で」。
 680ページに400点の写真が収められた本書は、その圧倒的なボリュームが驚くべきものであるのはもちろんのことですが、倉田氏自身の、自作に対するこうした明確な位置づけが、そのような圧倒的なボリュームを、背後でしっかりと支えてきたことを含み込んで見てみると、ひときわ印象の深いものになるように思われます。
 『代官山17番地』は、ビビッドなカメラ・ワークで人気のハービー・山口氏が、1996年に解体された、同潤会代官山アパートを撮った写真をまとめた写真集です。
 モダンな建築と自然が、年月の経過の中で絶妙に融合した同潤会代官山アパートは、ファッショナブルなスポットとしてだけではなく、多くのカメラマンのモチーフとしても人気の場所でした。山口氏は、そんな独特な場所を、たんに記録するのではなく、演出と非演出が交ったポートレイトと、近景と遠景が交った風景で綴ることで、そこに流れる雰囲気を巧みに表現しています。
 「時の流れに建物は老朽したが、草木と土がむせかえる空気とここに暮らす人々の営みは何にも変え難い素朴さと懐かしさに満ちていた。…美しい表情を持った建築と人々を自由に撮れる天から与えられたスタジオになっていた」。
 このように言う山口氏の、同潤会代官山アパートという場所を、こよなく愛した眼差しによって作られた本書は、繊細な光の中に人々の記憶もが定着された、稀有な写真集と言えるかもしれません。
 『SHIBATA Toshio』は、このほど光琳社から刊行が開始された、伊藤俊治氏の監修による、VISIONS of JAPANなるシリーズの一冊です。
 自然が加工され変形されていく風景を、大型カメラで精密に写す柴田敏雄氏の写真は、自然と人口のフォルムが混在した、独自の魅力を持っており、今や国際的にも高い評価を受けていますが、柴田氏の90年代の仕事を編んだ本書は、その魅力の端緒に触れてみるには、最適のものではないでしょうか。
 日本の現代写真家を、全25巻で取り上げていく予定のこのシリーズは、価格的にも手頃であり、なかなか写真集という形になりにくい日本の現代写真に、こうして気軽に触れることができるという意味で、好企画と言えましょう。またこの企画を、サイズも似ている、本誌163号で紹介した、岩波書店の全40巻の日本の写真家シリーズと併せて捉えてみると、日本の写真を計65巻という、大きなスケールで見ることができるようになると思われますので、それぞれのシリーズの完結が楽しみなところです。
 『映像論』は、写真という枠を越え、社会や映像といった幅広い観点から、今日のイメージの在りようを考察する、気鋭の評論家として知られ、かつ自身が写真家でもある港千尋氏による本です。港氏は、まえがきで本書の概略を、このように述べています。
 「序論において、映像通信が地球規模に拡大した現代を、『ピクチャー・プラネットの時代』と定義した後、以下各章では、映像を〈身体〉〈社会〉そして〈記憶〉との関係において見てゆく。そしてエピローグでは、ある特異な映像作家の活動を通して、『映像を見る』とはいかなる営みなのか、もう一度考えてみよう」。
 映像論、というと何やら難解で堅苦しいイメージを抱いてしまいがちです。しかし、「映像という経験が持つ重層的な意味を明らかにするために、本書では従来のような技術の発展段階に応じて記述する通時的なスタイルはとらない。むしろこの本は、序論、エピローグを含め内部に12個の映写室がある映画館として構成されている」、と港氏が言うように本書は、斬新かつ多様な視点と、豊富な実例によって、大きく変容しつつある映像という経験が、平易に記されており、楽しく読みすすめるうちに、映像についての認識が洗い直されるものになっています。写真表現にかかわる私たちにとっても、まさに、必読の一冊と言えるでしょう。