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[シリーズ『日本の写真家』:幕末から70年代まで、日本の写真通史/日本カメラ1998年5月号:105]


 すでに書店で目にしている方も多いと思うが、昨年9月、5巻が刊行されたのを皮切りに、毎月2巻、岩波書店より『日本の写真家』シリーズが刊行されている。
 最終的には、全40巻プラス別巻という構成になるこのシリーズは、各巻、基本的に一人一冊のアンソロジー写真集として作られており、それぞれに作家を紹介する文章やインタビュー、年譜が付され、全巻が刊行されると、幕末から1970年代をフォローする、日本写真通史になるというスケールの出版である。
 ここ10年程で、写真表現は以前に比べ大きな注目を集めるようになり、出版や展覧会などでも、様々な企画が立てられるようになってはきたものの、新たに関心を持った人たちに、充分応えうる環境が整っているかと言えば、けっしてそうではないというのが実状だろう。おそらくその根底には、時代や状況によって、じつに多様な仕方で活用されてきた写真表現を系統立てるということの、特有の困難があるように思われる。
 全40巻というボリューム、一冊70ページ前後で、写真集としてはコンパクトなサイズの体裁は、写真表現になじんでいる人たちには、やや物足りないものかもしれないが、逆に言えば、作家や作品のセレクションは、その分限られたボリュームの中で凝縮されており、なによりも、写真特有の困難に立ち向かって打ち出された、シリーズ全体のスケールは、そうした物足りなさを補って、なお余りあるものだろう。
 いっけん教科書的で地味ではあるが、日本の写真表現や写真史の、いわばスタンダードを提示する試みとしてみると、きわめて野心的な企画とも捉えることのできるこのシリーズは、入門者の手引きとしてはもとより、写真表現になじんでいる人たちにも見逃せない写真集になるのではないだろうか。