texturehometext archivephoto worksaboutspecialarchive 2ueno osamu

[モノクロ写真を楽しみ、日本の現代写真を俯瞰、おすすめの入門書刊行:『モノクローム写真の魅力』紹介/アサヒカメラ1998年12月号:141]


モノクローム写真の魅力 (とんぼの本)  現在、写真は何度目かのブームを迎えているといわれている。しかし、いざ手軽かつ本格的に、写真表現の魅力を伝えてくれる本を探してみると、なかなか見あたらないものではないだろうか。

 『モノクローム写真の魅力』は、そんな本を探していた人には、ぴったりの一冊かもしれない。写真表現の魅力を熟知した2人の著者が、幅広い世代からの、50人の写真家の作品とコメントの紹介を通して繰り広げる世界は、読者の好奇心にダイレクトに応え、そして知らず知らずのうちに、奥深いところまで読者を誘ってくれる。ページをめくっていくうちに、写真表現の魅力をいつのまにか教えてくれ、読後に、自分も撮ってみたい、もっと知りたい、そんな気分にさせられるに違いない。

 もちろん、タイトルからも一目瞭然なように、本書の内容はモノクローム写真に絞り込まれている。だが、本書に記された多くの事柄は、写真表現全般に妥当することでもあるだろう。なぜなら、著者も指摘しているように、写真の歴史を振り返れば、カラー写真が一般化したのはごく近年のことであり、写真史上のほとんどの作品は、モノクロームで作られてきたといっても過言ではないからだ。つまり、モノクローム写真の魅力と写真表現の魅力は、ほとんどイコールなのである。

 とはいえ、技術的な観点から見れば明らかなように、現在、モノクローム写真は、極論すれば、もはやカラー写真の選択肢の一つになりつつあるのも、また避けがたい事実である。今こうして分岐点にあるモノクローム写真を、とても親しみやすく紹介している本書は、写真の過去と現在をスムーズに橋渡しするという役割も果たしてくれるように思われる。こうした意味で、モノクローム写真に興味を持っている人はもちろんのこと、そうでない人にも、幅広く、写真表現の魅力への絶好の誘いとしてお勧めしたい一冊だ。