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[紙面と映像の実証性、新聞紙面の顔写真を経験と調査で研究:『新聞写真と顔写真』紹介/アサヒカメラ1998年11月号:139]


新聞報道と顔写真―写真のウソとマコト (中公新書)  私たちは、日々、さまざまな映像に囲まれて暮らしている・・・、と、こういった言い方は、今日の映像文化を語る際の、枕詞の定番中の定番として定着している。が、私たちを囲む映像について実際にどれだけ考えられているかといえば、充分とは言えないのが実状だろう。

 『新聞写真と顔写真』と題された本書は、新聞に顔写真が登場した今世紀初頭から今日に至るまでの社会面をベースに、丹念にデータ採集を行い、新聞における顔写真の在り様の変容を浮き彫りにした労作である。毎日のように目にしていながら、深く考えることなく済ませている顔写真をテーマにしたところも、たいへん独創的だと言えるだろう。

 作品としての写真を重視する昨今の写真表現の文脈からすれば、マスメディアにおける写真はやや軽視されがちだが、だからといって、それが重要ではない訳はない。今日、私たちが目にする写真のほとんどは、実のところ、印刷された写真なのだから。

 こうした意味で本書は、非常に示唆に富む一冊である。私たちの印象があんがい曖昧なことは、よく指摘されることだが、具体的なデータをもとにした本書の考察を読んでいると、見ていながらも気づくことのなかった、新聞における映像の価値の変容が、私たちの感覚にも大きな影響を与えてきたことを、まざまざと感じさせられる。

 本書は、「写真のマコト、写真のウソ」という一章で締めくくられている。写真の真実性、事実性についての議論は、写真の誕生から現在までずっと繰り返されているが、その今日的な問題は、写真は真実や事実を必ずしも表象しないと誰もがわかっていながらも、それに動かされているというところにあるだろう。この辺りは、本書で深く掘り下げられている訳ではないが、そのようなことも念頭において読むと、さらに興味深いかもしれない。