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[質・量とも定評ある『写真の歴史』待望の日本語版刊行/アサヒカメラ1998年9月号:98]


写真の歴史  1984年に初版が刊行され、89年に第2版、97年に第3版と、増補改訂を重ね、スタンダードな写真史として世界的に定評がある、ナオミ・ローゼンブラムの『A WORLD HISTORY OF PHOTOGRAPHY』の、待望の日本語版が出版された。

 原書も厚く重い本であったが、日本語版『写真の歴史』も同様のボリュームであることに加え、箱入りの装丁で、しかも定価2万2千円の、まさに大冊である。こうした外観からすると、よほど写真に興味がある人でも、蔵書の一冊として自分の書架に収めることを躊躇するかも知れないし、ともすれば、書店で立ち読みする人すら少ないのかも知れない。

 が、多少なりとも写真に興味を持っている人ならば、そのような態度は間違っている。

 欧米において、写真史の書物は多数刊行されているが、戦後、日本で翻訳されたのはわずか数冊にすぎない。しかも、それらは今日ではけっして新しいとは言えないものであるし、また、本書のようなボリュームのものは一冊もない。

 写真の初期から、今日に至るまでの歴史を記述しているのは、当然のこととして、本書は、写真図版も多数収録しており、加えて、写真技術小史、用語解説、人名索引なども充実している。したがって、写真史を学ぶだけでなく、写真集として見ることもできるし、事典的な活用も充分可能である。こうした意味で本書は、日本語で読める、はじめての本格的な写真史の本といっても過言ではない。

 しかし、逆に言えば、私たちは、このような本無しで、今日まで写真を見、語ってきた、ということでもある。なんという欠落であろうか。

 こういった状況を鑑みれば、本書を実現した、5人の翻訳者と監修の飯沢氏の労力には、無条件に、惜しみない賛辞がおくられなければならないだろう。