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[注目のCD-ROM/フォトCD写真集をチェック:紹介/日本カメラ1996年5月号:114-117]


『MAN RAY-FAUTOGRAPHE』

 写真家であると同時に、画家、映画作家、彫刻家といった多彩なアーティストであったマン・レイの作品の全貌を網羅するフォトCD。
 作品は、次の9章に分類されている。「絵画・ドローイング」「レイヨグラフ(フォトグラム)などの実験的作品の探究」「構成」「オブジェ」「ヌード」「女性」「ファッション」「ポートレイト」「セルフ・ポートレイト」。
 内容的には、作品集のような体裁でそれぞれの画面が作られており、さほど目新しさはないものの、300以上の画面に、約600点の作品が収録されているというボリュームは、やはり相当見応えがある。
 これだけのボリュームのマン・レイの作品集は、おそらくこのフォトCDの値段ではとても手に入らないだろうから、この意味ではお買い得だと言えるだろう。また、よくいわれるようにスペースも当然CD1枚分なので、作品集は欲しいがスペースが無いという人にも向いているかもしれない。
 なお、コンピュータで見る場合には、マイクロソフト・ワードのソフトを通して、マン・レイの経歴、出版リスト、映画リスト、展覧会リストを、テキスト・ファイルで呼び出すことができる。

『ROBERT MAPPLETHORPE-AN OVERVIEW』

 ロバート・メイプルソープの作品の大要を収録したこのCD-ROMは、「マルチメディア」と「フォト・ギャラリー」の2つのメニユーに分れている。
 「マルチメディア」のコーナーでは、メイプルソープや彼に関わった人々のビデオ・インタビューを挟みながら、収録された作品が自動的にプレゼンテイションされる。簡単にいえば、解説入りのコーナーといったところか。もちろん、途中で止めたり、途中から再生したり、前後のセクションに移動したりといったことも自在にできる。
 「フォト・ギャラリー」のコーナーでは、このCD-ROMの制作会社である、DIGITAL COLLECTIONS INCの頭文字をとって名付けられた、DCIイメージ・ベースというシステムにより、たんに収録された作品を見るだけでなく、作品データを呼び出したり、キーワードで検索したり、分類したりといったこともできる。さらに、好きな作品を、好きな順序に並べて、自分だけのスライド・ショーを行なう、といったことも可能。
 ちなみに、このCD-ROMには、セクシュアルなイメージが殆ど収められていないが、同封されている案内によると、シリーズとしてアダルト向けのイメージを集めた、『ROBERT MAPPLETHORPE-THE CONTROVERSY』というCD-ROMもあるらしい。

『I PHOTOGRAPH TO REMEMBER(思い出のために)』

『TRUTHS & FICTIONS』
 これまで数冊の写真集も出版し、多くの美術館にも作品がコレクションされているラテン・アメリカの写真家、ペドロ・メイヤーが1991年に発表し、数々の賞賛を受けCD-ROMの古典的名作と呼ばれているのが、『I PHOTOGRAPH TO REMEMBER(思い出のために)』。
 さて、実際にこのCD-ROMを見てみると、戦前から現代に至るメイヤーの家族の歴史が、100枚のモノクロ写真とナレーションによって、延々約30分再生されていく。もちろん、一時停止や前後へのスキップ、インデックスから写真を見るといったことも可能だが、作品の性質上、30分の物語に一度は付き合わなければ、あまり意味がないことになる。
 自分の誕生、一家の亡命、ガンを告知される年老いた両親…。そうした私的な歴史は、なるほど感動的で、名作と呼ばれるに値するのだろうが、さてこれが、CD-ROMの名作かどうかというと、考えが分かれるところだろう。つまり、写真という観点から見れば、こうしたプレゼンテイションは、CD-ROMでなければできなかったかもしれないが、CD-ROMという観点から見るなら、そのインタラクティヴな性質を殆ど活かしていないからである。
 さて、そのメイヤーの2作目のCD-ROMが、デジタル加工した作品を収めた、『TRUTHS & FICTIONS』。内容としては、メイヤーの解説ムービーが入っている「イントロダクション」と、「ギャラリー」「手紙」「デジタル・スタジオ」という4つのメニューがある。
 「ギャラリー」のコーナーでは、ギャラリー形式で写真を見ながら、解説音声を聞くことができるほか、カリフォルニア写真美術館のディレクター、ジョナサン・グリーンのナレーションに合わせて写真を見ることができる。「手紙」は、メイヤーの呼びかけに応えた、世界各国約80人の写真家・ジャーナリスト、アーティストの、“デジタル革命"についての意見が書かれた手紙を見ることができるコーナー。手紙のテキスト・データだけでなく、オリジナルの手紙なども収められている。そして、「デジタル・スタジオ」のコーナーは、20枚のイメージについて、そのデジタル加工の過程を、メイヤー自身が解説する。
 本作にしても、それがCD-ROMである以上、デジタル・イメージなのは当たり前のことなのだが、その種明かしまでわざわざやってみせているところなどは、やはり写真表現の、デジタル・イメージへのナイーヴな反応を、良くも悪くも典型的にあらわしているようである。