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[写真家の生涯を読む。:決定版ともいえるスティーグリッツとメイプルソープの伝記/日本カメラ1996年2月号:115]


アメリカ近代写真の父と言われるアルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)、そして、アメリカ写真のポストモダンの寵児ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)の伝記が、相次いで出版された。



『アルフレッド・スティーグリッツ 伝記』を手がけたのは、ロバート・キャパの伝記などで知られる、リチャード・ウィーラン(Richard Whelan)。その徹底した取材と、周到なリサーチぶりには、定評がある人物だ。本書もその例に漏れず、650頁以上のボリュームのうち、巻末のおよそ100頁が引用・参考文献の一覧に割かれていることからも、現在可能な調査をすべて行ったうえで書かれたものであろうことが伺える。スティーグリッツをめぐった写真集や評伝は、これまで数え切れないほど出版されてきたが、これだけのスケールで彼の生涯を描いた本は、はじめてと言ってよいだろう。

19世紀の後半に生れ、自らが写真家であると同時に、出版者、画廊主、コレクター、パトロンとして活動し、多くの写真家や美術家を育成あるいは紹介して、世に送り出していったスティーグリッツは、自身の写真作品はもとより、20世紀初頭のアメリカ美術に注目すべき業績を残している。周囲の人々や家族、友人、そしてジョージア・オキーフをはじめとする女性たちとの関係から、そうした彼の多彩な活動の軌跡を詳細に浮び上らせた本書からは、アメリカ写真のモダニティが形作られていった現場を、生き生きと感じることができるだろう。



『ロバート・メイプルソープ 伝記』の著者パトリシア・モリズロー(Patricia Morrisroe)は、雑誌『ニューヨーク』や、新聞『ニューヨーク・タイムズ』で活躍している俊英。「僕の人生は、おそらく僕の写真より興味深いよ」と言っていたメイプルソープは、エイズによる自らの死を予期し、伝記を書くことをモリスローに託した。そして、1989年3月に彼が死去する1ヵ月前までの間、16回に渡るインタヴューが行われ、メイプルソープと関わった人々の協力を得ながら6年間を費やして入念に書かれたのが、450頁を越えるボリュームの本書だ。

同性愛・SM・裸体などポルノグラフィックな対象を、写真によるアートとして提示したメイプルソープは、静謐な構成と性的な題材とが同居する写真作品によって、80年代に一挙に名声を高め、アート・シーンを登りつめたその時に、この世を去っていった。彼の作品と相まって、とかくスキャンダラスに語られがちであった、私生活における、ロック・スター、パティ・スミスとの熱情的な関係、アート・コレクター、サム・ワグスタッフとの同性愛、ニューヨークの性的アンダーグラウンドへのオブセッションなどの実相を描き出した本書には、一つの時代の症候としてのポストモダンを体現したような彼の生涯が、過不足なく照し出されている。