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[偶然と神秘へのナイーヴな信頼:「ジェリー・ユルズマン作品展」/アサヒグラフ1993年7月30日号:109]


 湖の上にぽっかりと浮かぶ大木、炎に包まれた机上の彼方に見える山、博物館のジオラマを見る観客の手前に横たわる裸の女。複数の写真を合成して非現実的な光景を作るジェリー・ユルズマンの展覧会が、東京・虎ノ門のフォト・ギャラリー・インターナショナル(PGI)で開かれている(七月三〇日迄)。
 ユルズマンは一九三四年、ミシガン州デトロイトに生まれた。ロチェスター工科大学、インディアナ大学で学んだ後、フロリダ大学で写真を教え、現在は同大の芸術研究所教授を勤めている。さまざまな技法によって写真に手を加えた「作られた写真」を目にするのは、今日では珍しいことではない。しかし、彼が写真作品を作りをはじめた六〇年代は、撮影の際に写真表現の基本的な性格づけが行われるべきだとする「ストレート写真」が基調をなしていた時代であった。複数のイメージを暗室の過程で組み合わせる技法を用いて作品を作ってきたユルズマンは、「作られた写真」を現代に甦らせた先駆者の一人だといってよいだろう。
 伝統的な風景写真を作るアンセル・アダムスなどが、視覚化(写真化)される以前の考えを重視し、「プレ・ヴィジュアリゼーション」を制作の視座に置くのに対して、彼は自身の制作行為を、視覚化(写真化)された以後の考えを重視する「ポスト・ヴィジュアリゼーション」と呼ぶ。ユルズマンはその制作行為を次のように語っている。「撮影をするにあたり初めはどんなアイデアも持たないで写真を撮るように心掛けている。…新鮮で今までにないような新しい要素を探しながら、暗室に入る前にこれらの種をじっくり見てアイデアを練る。…イメージを合成し再構成した私の写真は、写真に本来備わっている真実性にチャレンジするものであってほしいと思っている。情報のすべてが写真の中にあるにもかかわらず、そこには神秘がそのまま残っているのである」。
 偶然と神秘に対するこのようなナイーヴな信頼が、彼のフォト・モンタージュの基底にあることを今日再び確認することは、思いのほか重要に思われる。なぜなら、この観点から見るとき、ユルズマンの「作られた写真」は「ストレート写真」に対立するというよりも、「私」と「写真」の隔たりを埋める別種の技法の発見にほかならず、また、八〇年代の「作られた写真」の多くがその見かけの新鮮さ反して回帰したのが、ほかならぬこの偶然と神秘だったからである。