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[ON THE BOOKS11:'70年代に光をあてた写真史/アサヒカメラ1989年11月号:111]


 「1976年という年は日本の現代の写真史のなかでも、きわめて重要な年でありながら、今までどの写真雑誌、関係誌を見ても、この年が取りあげられたり、その出来事について多くを語られたことはない。」(序より)

 日本の写真史を考えるとき、70年代の資料は大きく欠落している。おそらく殆どの人々にとっては、アメリカの70年代の写真などの方が良く知っているのでは、と思われる程に、当時の日本の写真の流れを追うことは困難であった。既製のメディアとは違った場所(例えば自主運営ギャラリーなど)での活動が多かったという事情もあり、たった10年ほど前の出来事でも、その資料が殆ど残されていないのである。ときたま聞く断片的な話から興味はわくものの、当事者以外の私たちには「きわめて重要な年」であったかどうかを考える機会さえ無かったのである。

 『インディペンデント・フォトグラファーズ・イン・ジャパン』は、その70年代の写真の動向を正面から扱った初めての本である。おそらく誰でも、ページをめくりながら、現在も興味深い作品を発表している写真家の10人や20人を数えるのは難しくはないだろう。このことだけからでも、やはり、この時代を単なるマイナーな動きとして片付けるわけにはいかない気がする。

 むろん、「当事者にとって違和感を感じさせる構成があるかもしれない」「収録もれがかなりあるであろうことが気がかり」と編者も述べているように、この本のみで大きな欠落の全てがうめられているとは思えない。事実、記録としての客観性が欠けていると思われる記述も見うけられる。それゆえの批判や内容に対する反論も多くあるだろうが、それが再びこの時代を閉ざしてしまうのではなく、また新たな資料が提出される契機となることを願いたい。そしてなによりも、これまで誰も語らなかったことを、あえて数々の困難に労力をさいて語りはじめた編者にエールを送りたい。

『インディペンデント・フォトグラファーズ・イン・ジャパン 1976-83』
編者…金子隆一・島尾伸三・永井宏 東京書籍 3000円