texturehometext archivephoto worksaboutspecialarchive 2ueno osamu

[ON THE BOOKS9:見のがせない地方出版『方寸の地』『光跡65年』/アサヒカメラ1989年9月号:111]


 東京に居て、写真集と言うと、ついつい洋書を考えてしまう。それには理由があって、事情は変わりつつあると言っても、まだまだ洋書のほうが量的に充実しているという事実があるからだ。だが、もしかしたら写真集を見る側の私たちも、それを口実に、日本で出版されている写真集に目を向けることが少なくなっているのかもしれない。

 決して派手ではないが、力の入った写真集が実は日本のそちこちで出されているのかも知れない。そんなことを思ったのは、先日、福島在住の写真家による写真集を2冊見る機会に恵まれたからである。今回はその2冊を紹介したいと思う。

 『方寸の地』は、写真家であると同時に、ギャラリーKを主宰している会田健一郎さんの写真集。86年から89年に撮った写真をまとめたものである。といっても、ノスタルジックに過去をふりかえっているような性質のものではない。あとがきに「母の死を含め、僕が困難と感じているもろもろの事柄も、全て誰にでも起こり得るものであり、特別なことは何もない。いいかえれば、そんな風に感じた時から僕の写真行為が始まったに過ぎない。」とあるように、会田さんの写真は日常の日々と、寄り添っては離れ、離れてはまた寄り添っていく。会田さんの写真に向かう姿勢が、みずみずしく展開されている一冊である。

 『光跡65年』は大正13年に写真をはじめ、80歳をこえる今なお写真を続けておられる、小関庄太郎さんの写真集。小関さんの写真は、昨年の神奈川県立近代美術館での「日本の写真1930年代展」にも出品されており、定評がある。版画のような荒い調子の写真と、なめらかな調子の写真で織りなされる写真集は、「昔を懐かしむ心は悲劇である。私は老骨に堪えてやはり前進をしていきたい。」という言葉どおり、写真に対する意欲にみちていて、実に若々しい印象がある。日本の近代写真の厚みを感じさせる一冊である。