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[ON THE BOOKS4:アメリカの"問題"-N.ニクソン・アメリカの"郷愁"-G.タイス/アサヒカメラ1989年4月号:123]


 アメリカの現代写真が多くの人に受け入れられる理由の一つとして、写真が「問題」あいは「郷愁」を意図的に取り扱っているということがあると思う。それらは一見とりとめないように見えるスタイルの現代写真に、見る者が入りこみ、リアリティを感じる口実を与える。同形ではないとしても、アメリカの「問題」や「郷愁」は各種の情報により日本のものでもあるのだから、それはアメリカの現代写真が日本でうける理由の一つとも言えよう。そんなことを考えるのに格好な写真集がちょうど二冊発行されたので紹介したい。

 ニコラス・ニクソン(Nicholas Nixon)の『PICTURES OF PEOPLE』は78年から現在にけて8×10の大型カメラで撮られた人々の5つのシリーズ(人々・老人・家族・4人姉妹エイズ患者)をまとめたものだ。写真に扱われた(写された)主題から直接的に人種・老・家族・エイズという、あるいは少し抽象的にカップル・親子・兄弟・姉妹・友人という関係(絆)そして生命が誕生し消えゆくというさまざまな「問題」について、語り合うことできるという入口の広さをこの本は持っている。いずれもアメリカ人にとっては身近で身つまされる、全てを避けて通るというのは不可能な「問題」なのである。

 ジョージ・タイス(George Tice)の『HOMETOWNS』はジェームス・ディーン、ロナルド・レーン、マーク・トゥエインの故郷の町を撮ったものだ。町を移り住むことの多いアメリカ人とってのホームタウンは、日本人のいう故郷とは違った「郷愁」を持つ。わずか二百年余歴史からの町並は、固有の特別な風景であるはずもない均質な、しかし自分の育った記憶貼り付けられたような風景である。そんな意味でこの写真集の中で扱われた三人の故郷は、ほとんどのアメリカ人にとって「郷愁」を呼びおこす強力なメタファーであるに違いない。

 もちろん、ニクソンの写真から「郷愁」をあるいはタイスの写真から「問題」を引き出こともできること、そしてそうした「問題」や「郷愁」は優れた技量・スタイルに支えらた上で支持され強調され得ることは当然である。