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[考える一冊:時代を常に創り出す篠山紀信の「写真の力」に迫る・後藤繁雄『超写真論: 篠山紀信 写真力の秘密』/日本カメラ2020年1月号:135] 上野修



日本でもっとも有名な写真家のひとりでありながら、分析することがきわめて難しいといわれてきた篠山紀信を、真っ向から論じた本書のタイトルは『超写真論』。「超」に「メタ」というルビが振ってあるこのタイトルについて、著者は次のように述べる。

「僕がこの、篠山紀信の写真の力を考察する本のタイトルを『超写真論』(メタしゃしんろん)としたのは、彼の写真がまるで鏡のようにあるからだ。鏡に映るものは鏡ではなく、鏡自体は無であるという構造に似ていると思われるからだ。写真とは、映し出された映像ではなく、メディアそのものだというパラドキシカルな問いを、篠山は仕掛け続けてくるのである」

「事件」であり、「メディア」であり、「イノベーター」である、万華鏡のような篠山紀信を論じることよって、「写真の力」「写真の本質」「写真の今」が照らし出されていく。写真表現に篠山紀信を位置づけるのではなく、篠山紀信に写真表現を映し出していくというメタ的アプローチが、じつに鮮やかだ。本とネットのいいとこどりをしたような文体とレイアウトが、そのアプローチを加速していく。

「……でも僕は自分の写真を歴史に残したい、なんていう気持ちはない。いっさいなくなったほうがいいって思うこともあるぐらい(笑)。……第一、写真って自分の生きている時代しか撮れないんだし。死んだあと?さあ(笑)」

最後のページに記された篠山紀信のこの言葉は、新たな迷宮への誘いでもあるだろう。



目次

第1章 「写真は時代を映す鏡だ」と篠山紀信は言う
第2章 「写真力」展をめぐりながら考える
第3章 「写真力」をめぐる4つの秘密
第4章 逆襲する篠山紀信(写真の再編と再生の季節に)
第5章 東京は写真である
第6章 踊りながら撮り続けろ!!
第7章 「快楽の館」そして「イノセント」へ