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[ブックレビュー/nikkor club #201 2007 summer:98-99]


林檎の里の物語 カナダ アナポリス・ヴァレーの奇跡 『林檎の里の物語 カナダ アナポリス・ヴァレーの奇跡』は、吉村和敏氏が10年間撮り続けてきたアナポリス・ヴァレーの写真を、インタビューとともに編んだ一冊です。生まれ故郷の信州と似ているこの土地のお年寄りたちとの交流に、亡き祖父母との思い出を重ね合わせていたのかもしれないと語る吉村氏は、こう述べています。

「ある日、眼下に広がるモザイク模様を眺めていたら、果樹園や牧草地、民家や納屋から、不思議な人の気配を感じ取ったのだった。その瞬間、この里で暮らす人々にますます興味を抱くようになり、特にお年寄りたちの話に耳を傾けてみたくなった。…誰にも果てしない物語があり、そして、誰もがアナポリス・ヴァレーを心の底から愛していた。一人ひとりに秘められたスピリットは、今まで出会ったたくさんの色鮮やかな風景と重なり、僕はますます、この里にかすかな足跡を残していきたくなった」

吉村氏は、カナダやヨーロッパのカントリーサイドを丹念に撮影し、時間をかけて作品を作り上げていくことで知られていますが、なかでも本書は、その特色がよくあらわれている一冊です。写真もインタビューもすばらしく、ヴィジュアル的にもドキュメント的にも魅力的で、写真を撮る姿勢を教えられる本でもあります。

東京エデン 『東京エデン』は、未知の空間を写して大きな話題を呼んだ『JAPAN UNDERGROUND』で、地下の写真家として知られる内山英明氏が、一転して昼の世界をモチーフにした写真集です。

「光の中の都市の谷間を歩くとき、地下世界から突如光の眩しい地上へと足を踏み入れるとき、そこにあるはずの見慣れた街の風景はそこにはなく、白い光の渦巻く異形の光景だけが渺々(びょうびょう)として広がっている」

このように語る内山氏の写真は、違和感に満ちた東京を、力強く浮かび上がらせています。モチーフを探し求めなくても、視点しだいですぐれた写真表現が生まれる好例だといえましょう。

CLUB&COURTS YOKOSUKA YOKOHAMA 『CLUB & COURTS YOKOSUKA YOKOHAMA』は、石内都氏が1989年から90年に撮影した、横須賀のEMクラブと横浜のベイサイドコートの写真をまとめたものです。つぎのように語る石内氏の写真には、銀粒子のざわめきが語り出すような、幻想的ともいえる不思議な魅力が溢れています。

「今となっては写真の中にしかそれらは存在しない。写真はどんなにあがいても過去の記念的記録からのがれられない。その事を充分承知の上で写真の嘘のような、本当のような、美しいのか、醜いのか、その両面を合わせ持つ写真の姿をもう一度考える為に、確かにかつて横須賀と横浜にあったという事実ではなく、2007年によみがえった建物達に、見果てぬ夢をこの本の中でみせてあげたい」

囲市 『囲市 かこいまち』は、さまざまなアプローチで都市を撮り続けている高梨豊氏の新作です。

今回の作品では、所有や欲望の表徴としての「囲い」というユニークなキーワードを用いて、社会や人間のありようを浮かび上がらせています。変化し続けている都市の姿を柔軟に捉えている、しなやかで熟達したカメラワークが印象的です。

偽景 1998-2006 『偽景』は、人間の痕跡がある風景を撮り続けている菊地一郎氏が、1998年から2006年の写真を編んだ一冊です。

静謐なモノクロームによって照らし出された、自然と人工物の対比が、現代日本の光景をよく物語っています。日本全国津々浦々の光景を捉えているフットワークのよさも、大きな見どころです。

棚田を歩けば 『棚田を歩けば』は、棚田を10年以上訪ね歩いている青柳健二氏が、日本を中心に、アジア・アフリカなどの棚田も含めて編んだ、子ども向けの写真集です。

子ども向けとはいえ、環境や文化のことも考えながらしっかりと撮影された写真は、大人が見ても、とても見応えのあるものになっています。ゆるやかに流れる時間のなかに、自然の豊かさが感じられる一冊です。

車窓のことば 『車窓のことば』は、鉄道写真の第一人者として知られる真島満秀氏が、鉄道の旅をめぐる言葉とともに写真を編んだ、フォトエッセイ集です。

さりげなく撮られているように見えるスナップでも、鉄道ならではの味わいがみごとに写しとられており、ページをめくるたびに、旅の叙情がしみわたってきます。

映画と写真は都市をどう描いたか (ウェッジ選書) 『映画と写真は都市をどう描いたか』は、題名のとおり、映画と写真と都市の関連を考察した企画本です。

とかく難しくなりがちなテーマですが、講演や対話がベースになっているので読みやすい本に仕上がっています。写真を考える感性を磨くのにおすすめの一冊です。

photographers'gallery press no.6 『photographers' gallery press no. 6』は、東京・新宿の自主運営ギャラリーphotographers' galleryによる年1回発行の機関誌の新刊です。

毎号充実度を増しており、メンバーによる写真作品はもちろん、写真文化をめぐるさまざまな論考が収録され、現代写真の最前線が感じられるものになっています。