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[ブックレビュー/nikkor club #202 2007 autumn:102-103]


群集のまち 『群集のまち』は、『化外の花』『ぼくは写真家になる!』といった本で知られる太田順一氏が、大阪24区をくまなく歩いて撮った写真集です。日常の街の光景が捉えられているのですが、写真にはまったく人が写っていません。太田氏は、次のように述べています。

「…私としては、人は写してはいないけれど〈もの〉〈風景〉に反映された人の営みを撮ってはいるつもりです。ただ、人を撮っていたときにはなかったプラスアルファを〈もの〉〈風景〉の彼方に求めています」

太田氏は、写真としての形にとらわれず、風景の在りようにしたがって写真を撮っているようにみえます。その結果、ページをめくっているうちに、風景が語り出しはじめるように感じます。全体から細部へ、細部から全体へ視線をめぐらし、ゆっくりと見ていくのが心地よい、魅力的な写真集です。

『わったー「島クトゥバで語る戦世」-684-』は、沖縄の写真家、比嘉豊光氏が、戦争体験を語るオジィ・オバァ(おじいさん・おばあさん)たちを撮影した写真集です。

比嘉氏は、戦争体験をその村の島クトゥバ(島々で異なる沖縄方言の総称)で語ってもらい、それを映像と写真で記録する活動を行っていますが、684人まですすんだ記録のうちの、写真をまとめたのが本書です。この撮影は、次のような独自の方法で行われています。

「なるべく多くの方々に参加してもらい、お互い身近な人々の関係で島クトゥバを語り、聞きあう方法で撮影した。それは、証言者どうしがその島共同体の戦争の記憶として共有化出来るという、感動的な出来事でもあった」

自らの言葉で語る人々を捉えた写真は、ポートレイトというより、スナップショットのようでもあり、ひじょうに臨場感のあるドキュメントになっています。

MARTHA ARGERICH/木下晃作品集 『MARTHA ARGERICH』は、音楽写真家の第一人者として知られる木之下晃氏が、1976年の初来日から2006年の来日まで、ピアニスト、マルタ・アルゲリッチを撮った写真をまとめた写真集です。

ステージから楽屋まで、絶妙な瞬間を捉えた木之下氏ならではのカメラワークがすばらしいのはもちろんですが、本書は、カメラ嫌いのアルゲリッチの、世界初の個人写真集として貴重なものでもあります。木之下氏でなくてはなしえなかった出版であり、世界に誇れる一冊です。

女(ONNA) HILL TRIBES WOMAN IN VIETNAM 中原英明+船元康子写真集 『女(ONNA)』は、フリーカメラマンの夫婦である、中原英明・船元康子の両氏が、ベトナム山岳少数民族の女たちを13回にわたって取材した写真集です。

本書は、金歯やお歯黒、装飾品、手や足のクローズアップ、ポートレイトや集合写真で構成されています。ていねいに撮影された一枚一枚の写真が、民族の文化のなかで生きていく人びとを、しっかりと浮かび上がらせているのが印象的です。

撮影者のひとりである中原氏は昨年他界しており、これが夫婦による最初で最後の写真集になってしまったことが、ひじょうに残念です。

野生のカメラ 『野生のカメラ』は、「自然は神、野生は友」をモットーに野生の世界を追い続けてきた動物自然写真家の吉野信氏が、35年にわたる写真家としての自分史を編んだ一冊です。

アラスカ、カナダ&ロッキー、インド、アフリカ、そして日本における撮影紀行が綴られており、数々のベストショットが生まれた背景を知ることができる内容になっています。独自の撮影術もふんだんに紹介されているので、写真を撮る者にとっては、とても参考になる本でもあります。

ブリキ男 『ブリキ男』は、写真作品でも知られている美術家の秋山祐徳太子氏が、戦前の東京下町の生活から、美術大学時代、60年安保闘争、ポップ・ハプニングと称する数々のパフォーマンス、そして現在までを書き下ろした自伝です。

現代美術、前衛芸術というと、難しくなじみにくいものを想像しがちですが、本書を通して見えてくる美術は、とても率直で、親しみが感じられるものです。それだけでなく、秋山氏の人生をとおして、時代や社会がリアルに照らし出されているのも興味深いところです。

エドさんのピンホール写真教室 スローライフな写真術 『エドさんのピンホール写真教室』は、1979年から日本に居住しているアメリカ人写真家、エドワード・レビンソン氏による入門書です。ピンホール写真をとおして、写真をめぐるさまざまな思考が綴られているので、写真を考えるテキストとしてもおすすめです。

PINHOLE写真術 アナログ的写真のススメ 『PINHOLE写真術』は、カメラ作りから、撮影と現像まで、じっさいにピンホールカメラを作って楽しむノウハウがつまったガイドブックです。デジタル全盛の現在、手軽に写真の原理を学ぶこともできるピンホール写真を体験してみることは、新鮮な刺激になると思います。

デジタル一眼レフで始める101万人の写真ノート (日本カメラMOOK) 『デジタル一眼レフで始める101万人の写真ノート』は、わかりやすく面白い入門記事でおなじみの久門易氏による一冊です。フィルムカメラと比較しながら、デジタル一眼レフの基本からしっかりと解説してあるだけでなく、ライティングやフォトショップなどの話も織り込まれているので、ビギナーから上級者まで、幅広く役に立つ本だといえるでしょう。