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[書評:昆虫と路上に目線を合わせた・糸崎公朗『東京昆虫デジワイド』/日本カメラ2007年12月号:161]


東京昆虫デジワイド 写真を切り抜いて組み立てると街があらわれる模型「フォトモ」(フォトグラフ+モデルからの造語)で知られるアーティスト、糸崎公朗が、新しい写真集『東京昆虫デジワイド』を出版した。

街と昆虫では、ずいぶん対象がちがっていて、飛躍があるようにも思える。だが、そんなことはない。本書に収められているのは、路上の昆虫であり、都市への関心は連続している。また、独自な技法による、不思議な視覚という点も共通している。糸崎は、制作の動機について、こう述べている。

〈ぼくがフォトモという独自の手法で路上を撮るのは、普通の写真技法では「ぼくが見た路上」が表現できないからだ。同じように「ぼくが見た昆虫」も、普通の写真技法では表現できなかった〉

路上に棲む虫をマクロレンズで撮ると、背景がボケてしまう。しかし、糸崎は、昆虫と周囲の路上を「同等の価値」で表現したかった。そこで、路上観察に用いていた「ツギラマ」(ツギハギ+パノラマ写真の略語)を昆虫写真にも用いるようになり、その作品で、コニカ・フォト・プレミオ大賞も受賞している。

海野和男や栗林慧といった先達の仕事に触発されながら、「ツギラマ」ではなく、一枚の写真での表現も実現するために試作を続けた糸崎は、ドアスコープを使った「デジワイド」(デジタル・ワイド・マクロ写真の略語)にたどりつき、本書に収められた写真を生みだすことになった。

「デジワイド」による写真のオリジナリティは、この写真集を見れば一目瞭然である。語弊がある例えかもしれないが、虫が嫌いな人が見たら、一瞬にして鳥肌が立つようなリアリティがあるのだ。

「フォトモ」にしても、「デジワイド」にしても、映像があまりに独自なので、奇抜な技法にのみ注目しそうになる。だがやはり、糸崎の仕事は、動機そのものがオリジナルなのだ。そうでなければ、これだけのリアリティは生まれない。

写真の表現も技法も出つくしたといわれてひさしい。しかし、本書を見れば、それが俗説にすぎないことがわかるだろう。