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[書評:ショッピングセンターの駐車場のオイルの染みから広がる世界・芸術と政治という古くて新しい問題を照らし出す・上本ひとし『OIL 2006』/日本カメラ2007年10月号:165]


OIL 2006 上本ひとしの写真集『OIL 2006』は、抽象的なオイルの染みの写真ではじまり、具象的な工業地帯の写真がつづき、ふたたび抽象的なオイルの染みの写真でおわっている。上本の次のような言葉を読むと、このふたつの種類の写真が、連続した関心によるものであることがわかる。

「ショッピングセンターの駐車場で見た小さなオイルの染みは、私の目を魅惑し、現代エネルギー社会の断末魔的美を感じさせ、私の心を、サウジアラビアの広大な砂漠、油田の上に導いて行く」

どのような写真も、かならず何らかの現実を写している。この意味で、すべての写真は具象的である。他方、どのような写真も、現実そのものではない。この意味で、すべての写真は抽象的である。現実であり、現実でなく、具象と抽象のあいだを揺れ動く、それが写真だ。そして、この矛盾にこそ、想像力が生まれる余地がある。上本はこう述べている。

「原油価格の高騰、ある意味でピークとも言われる化石燃料の終焉は、現代エネルギー社会の崩壊を意味し、近い未来のクリーンエネルギーへの変化は、今起きている、アナログからデジタルへの変化以上に、社会、経済、産業を大きく変貌させる。そんな予感が、今、私の不安となっている」

「私の目」「私の心」「私の不安」と、上本はいう。それらを結ぶのは、「断末魔的美」である。その美が、私的な想像力を社会へ、砂漠へ、油田へと跳躍させる。この精神は、アバンギャルド的だ。

『OIL 2006』は、アバンギャルドという懐かしい場所で、芸術と政治という古くて新しい問題を照らし出す。本書の写真が、見る者の想像力をも揺るがすのは、それがアバンギャルドやオイルのように、懐かしいと同時に今日的であるからだろう。