texturehometext archivephoto worksaboutspecialarchive 2ueno osamu

[夢の書棚:職人技が光る空撮による30年の定点観測・渡部まなぶ『都市再生・千フィート今昔』/日本カメラ2007年7月号:171]


都市再生 千フィート今昔 渡部まなぶ写真集 渡部まなぶの『都市再生・千フィート今昔』は、30〜40年前と現在の都市を、定点空撮した写真集である。

渡部が写真家として独立したのは、1966年。その後、出版社のプロジェクトチームの一員として日本地理分野の撮影を担当したが、地上からでは広大な工場地帯の奥行きがある写真を撮ることができず、悩んだ末に「セスナ機をチャーターし空から立体的に撮影したい」と発想したと、航空撮影をはじめたいきさつを書いている。

『都市再生・千フィート今昔』のページを開くとき、そこには写真を見ることのプリミティブな興奮がある。写真術発明の初期に、ナダールが気球から空撮を試みたことからもわかるように、上空からの映像には、胸躍るなにかがあるのだ。それは、今日でも変わらない。

こうした上空からの映像は、インターネットが普及した現在、とても身近なものにもなっている。代表的なものは、衛星写真や航空写真を用いた、グーグル・マップ*1やグーグル・アース*2だろう。ほかにも、国土交通省国土計画局の国土情報ウェブマッピングシステム(試作版)*3では、1974年〜1990年にかけて撮影された、約40万枚の写真を整備した国土画像情報(カラー空中写真)を検索・閲覧することができるし、国土地理院では、1945年ころから全国土を対象に繰り返し撮影された、約100万枚におよぶ空中写真を、デジタル化完了したものから空中写真閲覧サービス(試験公開)*4で順次公開している。

このようなインターネット時代において、渡部の空撮の新鮮さが薄れたかというと、そうではない。それどころか逆に、渡部の仕事のオリジナリティは、ますます輝いているように思えるのだ。

前述した、インターネット・サービスで見ることができる映像は、真下を写したものである。そうした映像は、地図のように見ることができるメリットもあるが、立体感が欠けてしまうというデメリットもある。それに対し渡部の映像は、奥行きを立体的に撮影したいという発想からはじまっているだけあって、スケール感がみごとに表現されている。こうしたアングルがついた空撮では、フレーミングの問題が生じてくるが、現在の都市がしっかりとおさまるフレーミングで、日本全国を30〜40年前にすでに撮影していたセンスもすばらしい。

『都市再生・千フィート今昔』に収められた写真は、どれも近景から遠景までがクリアに写っている。渡部は、視程40キロを綺麗な航空写真の撮影条件にしているという。これがどれほど厳しい条件なのかは、超高層ビルから街を展望したことがある人ならわかるだろう。

おそらくこのほかにも無数の努力と経験の積み重ねがあって、本書の映像が生まれているのだろう。その映像があまりに完璧なので、見る者は撮影の苦労を考えることなく、写真を眺め自在に思いを馳せることができる。「写真の持つ特性の第一義である記録性を活かし」と、渡部は述べているが、その記録性を支えているのは、卓越した職人技であり、その映像は、究極の表現ともよべるものではないだろうか。

本書の、30〜40年前の映像はもちろん貴重なものだが、数10年後には過去になるであろう現在の映像もまた貴重なものである。それが、渡部まなぶという写真家の職人技で撮影されていることの意義はきわめて大きい。

*1 Google Map (http://maps.google.co.jp/)
*2 Google Earth (http://earth.google.co.jp/)
*3 国土情報ウェブマッピングシステム(試作版) (http://w3land.mlit.go.jp/WebGIS/)
*4 国土地理院・空中写真閲覧サービス(試験公開) (http://mapbrowse.gsi.go.jp/airphoto/)