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[書評:近代のモチーフを新たなまなざしで描く都市の映像論・高橋世織(編著)『映画と写真は都市をどう描いたか』/日本カメラ2007年6月号:141]


映画と写真は都市をどう描いたか (ウェッジ選書) 『映画と写真は都市をどう描いたか』は、さまざまな観点から映像と都市の関連を考察したアンソロジーである。

編者の高橋世織の本格的な論考のほか、蓮實重彦、深川雅文、篠田正浩、中野正貴、石井和紘、黒沢清、港千尋、吉増剛造、飯沢耕太郎、常石史子、宮本隆司といった、そうそうたる顔ぶれによる文章や作品が収録されており、コンパクトながら、たいへん読みごたえがある一冊になっている。

巻頭で高橋は、次のように述べている。

「都市自体も破壊や再生を繰り返し、まるで生命体のようにイメージ化されていった。そしてなによりも都市それ自体が映像となってしまっている。映像都市といってよい情況は、一九二〇年代に、世界の大都市には成立していった。…都市体験自体が映像体験との類似性を高めていく、いわば映像都市が成立していくのだ。…二十世紀の時代や文化を検証していくうえで、映像メディアの果たした役割や影響は計り知れない。モダニズムという欧米の近代都市の文化と論理、モードを地球規模で広めていったのである」

高橋のいうように、20世紀をとおして、映像と都市の関連は重要なモチーフであり続けてきた。逆にいえば、本書のモチーフは、とくに目新しいものではなく、百年来、変奏され続けてきたものである。だが、本書には、従来のものとは、違ったニュアンスが通底しているようにも思われる。その違いとは、映像と都市に対する高揚感が希薄なことである。

今日、どのような都市を見ても驚くことがないように、どのような映像に触れようと、どのような都市論に触れようと、沸き立つようなものは何もない。しかし、この高揚感のなさこそは、21世紀においてはじめて可能になった新しい感覚ではないだろうか。この意味において本書は、映像と都市をめぐる、もっともヴィヴィッドな一冊であり、すぐれたガイドブックになっているといえよう。