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[書評:アンダーグラウンドを得意とする写真家が昼の光の東京を撮った・内山英明『東京エデン』/日本カメラ2007年5月号:189]


東京エデン 『東京エデン』は、ふだん見ることのない地下世界を撮った、3冊の『JAPAN UNDERGROUND』で知られる内山英明の新作である。地下世界以外の写真集では夜の東京を撮った『東京デーモン』があったが、今回の写真集は、昼の東京を撮ったもので、内山作品としては珍しく陽の光を浴びた風景が展開されている。

地下世界や夜の写真は、被写体自体が新鮮である。それに対して、昼の東京は、あまりにも見慣れている対象であり、また撮りつくされてきた対象であるといえよう。それだけに、写真集を開くとどんな世界があらわれてくるのだろう…という期待と、ありがちな写真だったら…という不安がいりまじる。

じっさいにページを捲ってみると、そんな不安は一気に吹きとばされた。ここにあるのは、かつて見たことのない東京の写真だ。正確にいうなら、撮られている対象も見たことがある。そして、撮り方も、紋切り型といっていいくらいに、伝統的な写真の形式にのっとっている。にもかかわらず、『東京エデン』が照らし出しているのは、形容しがたい未知の東京なのである。これはいったい何なのか。内山の言葉にヒントを探してみる。

「目まぐるしく流れ変化を続けるTOKYOは、地球上で最も無国籍で無機質な都市の一つになってしまったが、私はそんなTOKYOを取り囲む不毛な風景を、不毛さとして受け入れそのままにずっと愛してきた。…私はTOKYOの日常と異世界の淡い境界から生まれる異形の光景を愛しながらも、その世界に調和を求めなかった」

そうだ、愛なのだ。対峙するのではなく、受け入れる愛。内山は、愛のフォルマリズムで東京を飲み込み、東京は内山を飲み込んだ。こんなに激しく優しく東京を愛した写真家はかつていかなった。地下と闇の写真家の、白昼の愛。『東京エデン』は、甘く生ぬるい既存の東京のイメージを一変させる、恐るべき写真集だ。