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[夢の書棚:国土地理院の地図にも似て地味だけど最も情報量の多いカメラ関連カタログ・『カメラ年鑑2007年度版』/日本カメラ2007年4月号:187]


カメラ年鑑 (2007) (Nippon Camera Mook) 毎年年末に発行されている『カメラ年鑑』は、もっとも地味な写真関係の出版物のひとつだろう。しかし、地味だからといって、つまらないわけではない。それどころか、もっとも面白い出版物だとすら思う。

『カメラ年鑑』には、ずいぶんと昔からお世話になっている。カメラは欲しいが、なかなか買えなかったころ、まず集めたのが無料のカタログである。各社のカタログを、来る日も来る日も眺める。そうして眺めていると、どれがいいのか、さっぱりわからなくなってくる。カタログは、いいところばかりが書いてあるのだから当然である。そこで、カタログで火照った頭を冷やすために、すべてのカメラが同じ形式で載っている『カメラ年鑑』で再チェックする。検討のための必需品だから、カメラを買うお金がなくても、『カメラ年鑑』は必ず買ってあるのである。

『カメラ年鑑』は、アクセサリー類も網羅している。アクセサリー類には、手頃な値段のものも多いので、何に使うのかよくわからないまま、安価なルーペを買ってしまったりする。のちにカメラを買ったときに、そのルーペを使うために、リバーサルフィルムで撮影するという、本末転倒なことが起きる。安価なルーペでは満足できなくなり、高価なルーペに手を出す。高価なルーペでは画質のアラも見える。すると、新しいカメラやレンズが欲しくなる。

けっきょく何のために何をやっているのかよくわからない状態になっているわけだが、これがカメラにハマるということであり、めっぽう愉しい。このように、カメラにハマる道筋を、幾通りにも潜ませているのが『カメラ年鑑』であり、ハマればハマるほど、面白く読めるようになってくるのである。この感覚は、国土地理院のオーソドックスな地図が、じつはもっとも情報に満ちていて、読み込めるようになると、最高のガイドとして使えるのと似ている。

2007年版でも、こうした面白さは健在だ。メジャーな製品はもちろん、たとえば何百万円もするデジタルカメラバッグといった、普段あまり注目しないような製品も載っている。銀塩の衰退ばかりがニュースになっているが、長巻き用のディロールや、引き伸ばし機だって、まだまだしっかり作られていることがわかる。インターネット全盛の今日でも、このような一覧性、事典性は、やはり『カメラ年鑑』という出版物でしかえられないものだろう。また、保存性も出版物ならではの特性だ。めまぐるしく新製品が発表されるデジタル時代の現在、二〜三年もたったら、かなり興味深い資料になっているに違いない。

『カメラ年鑑』を捲りながら、こういうカメラはいったいどういう人が使うのだろう、このアクセサリーはいったい何のために使うのだろうと、徒然に想いをはせる。そうしたモノを使って、世界中で日々生まれているであろう写真に想像を膨らませ、無限の可能性を感じる。カメラ愛好者はイコール写真愛好者ではないと揶揄されたりもするが、プロ、アマチュアを問わず、『カメラ年鑑』に載っているモノをひとつも使っていない写真家など、世界にひとりもいないといっても過言ではあるまい。カメラの世界の拡がりは、写真の世界の拡がりでもあるのだ。カメラ愛好者で結構ではないか。『カメラ年鑑』を見ていると、そんなふうにも思えてくるのである。