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[書評:鉄道写真の“神様”が甦させる国鉄時代の特急電車たち・広田尚敬『国鉄特急』/日本カメラ2007年4月号:189]


国鉄特急 名匠・広田尚敬が活写した国鉄黄金期の特急たち 『国鉄特急』という題名を、コクテツ、トッキュウ、と声に出して読んでみる。その語感に、懐かしさがこみあげてくる。じつに単刀直入な題名だが、どんな形容詞よりも、時代と思い出を物語る、すばらしい題名でもある。

この題名をすばらしく感じるのは、むろん、この写真集がすばらしいからである。広田尚敬は、ホームページで次のように書いている。

「1958年から1987年の30年間、一人の人間が憧れを抱いて撮影した国鉄特急の本は、これが最初で最後です。もしそのようなものが今後出たとしても、はっきり申し上げて写真のクオリティが違います。気合が違います」*

鉄道写真の第一人者と呼ばれる作者が、あえてこれほどの自負を述べているのだ。すばらしい写真でないわけがない。だが、それだけではない。この写真集は、本としてのできばえもすばらしいのである。

たんにデザインがいいとか、レイアウトがいいというレベルのものではない。そうした点では、オーソドックスな作りだ。オーソドックスというのは伝統を重んじるだけではなく、それを引き継ぎ未来に託すために、現在の最高の技術と情熱を注ぐことでもある。この意味で、国鉄の特急と、本書の造本には通底するものがある。それゆえ本書には、あの重厚な国鉄時代の特急そのものであるようなオーラがあるのだ。

あとがきで広田は、写真はシャッターを押すその“時”しか記録できないが、場合によっては、過去や未来が撮れるのではないかと問いかけている。20年後、30年後に発表するつもりで撮ることは、「未来を見つめて撮り、過去を意識して撮る」ことではないかと言うのである。

「過去と未来の撮影は趣味として楽しめるし、何より夢があると思うのです。趣味は美しい夢を求める行為なのです」

このように語る広田による本書を見ることは、写真の夢を共有することでもある。鉄道ファンでなくても、ぜひ書店でじっさいに手にとって見てほしい。本書の夢とオーラに、瞬く間に魅了されることだろう。

*広田尚敬・広田泉公式ホームページ(http://tetsudoshashin.com/)の「広田尚敬の鉄道コラム」より。ほかにも制作過程の話などが豊富に掲載されている。