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[書評:孤独な夢を生き続け孤独な呼びかけをする「あなたは決してひとりではない」・赤城耕一『銀塩カメラ至上主義!』/日本カメラ2007年3月号:181]


銀塩カメラ至上主義! 『銀塩カメラ至上主義!』は、おなじみ赤城耕一が、百台近い35ミリ判カメラについて綴った一冊である。

タイトルだけ読むと、銀塩最高!という単純なマニフェストであるように見える。しかし、帯には、あとがきにもある「デジタルカメラだけで本当にいいのですか?」という言葉が記してある。

この言葉は、意外に意味深だ。というのは、充分にデジタルカメラを認めていることになるからである。じっさい著者は、仕事ではバリバリにデジタルを使ってもいるのだ。したがって本書は、そう単純なマニフェストではない。

著者の略歴には、1961年生まれとある。微妙な年齢だ。フルマニュアルのメカニカル機を偏愛するには若すぎるし、デジタル万歳というには年をとりすぎている。写真家としては、これからというときに、フィルムからデジタルへの波をかぶってしまった。そういう年齢なのだと思う。

それは、登場するカメラのセレクションにもあらわれている。まずはじめは、超正統派のニコンF。次は、キヤノンEF。その次は、ミノルタX-1モーター。キヤノンEFもミノルタX-1モーターも、画期的なカメラではあるが、現在見ると、ずいぶん半端に感じるカメラでもある。しかし、この半端さは、当時の夢の証でもあった。夢のずっと先には、今日のようなデジタル時代が来るとも知らず、その半端さが予感させる未来に胸ときめかせたのだった。だから、本書のセレクションを見ていると、涙が出てくるような感動がある。

「本書はカメラマニアやコレクターの方々の役に立つような資料になることはないし、そのようには編集されていない」

著者は、こう断言している。続けて、銀塩写真を制作している人に、「あなたは決してひとりではない」と呼びかける。おそらくは、これこそが、派手なタイトルに隠された、本書の真のマニフェストなのだと思う。孤独な夢を生き続けている赤城の、孤独な呼びかけ。だから、赤城の書くものは、信頼に足るのだろう。