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[ブックレビュー/nikkor club #197 2006 summer:102-103]


マエストロ 世界の音楽家 木之下晃作品集 音楽写真の世界の第一人者、木之下晃氏の『マエストロ・世界の音楽家』は、40年に渡って撮り続けてきた3万本以上のフィルムから選び抜いた、184点を編んだ写真集です。20世紀後半に活躍したクラシック音楽家たちの最高の瞬間が収められた本書は、読者の魂をも揺さぶるような力に満ちています。木之下氏は、次のように述べています。

〈写真はシューティングに帰ることが大切です。弓矢を射る瞬間に帰ること。弓矢を放つ瞬間の集中力を持つことがシャッター・チャンスをつくることです。被写体を見ているとき、僕はいつも弓を引いているみたいに構えています〉

数々の珠玉の瞬間が、じつはこうした単純な行為によって生まれていること、そしてその単純な行為こそが、もっとも難しいということを示している本書は、音楽愛好家のみならず、写真愛好家にとっても貴重な一冊であるといえるでしょう。

ヴェルディへの旅 写真とエッセイでたどる巨匠の生涯 木之下氏は、音楽家のライヴ・ポートレイトのほか、世界の劇場、世界の作曲家の遺蹤(いしょう)を撮ることをライフワークにしていますが、『ヴェルディへの旅』は、ワーグナー、モーツァルト、ベートーヴェンに続いてまとめられた、作曲家の遺蹤を撮る仕事です。

生誕の地から初演劇場、墓碑まで、20年にわたるフィールドワークによって丹念に撮り込まれた写真は、記録としてひじょうに価値があるだけでなく、いきいきとしたヴェルディ像を浮かび上がらせるものでもあります。音楽を深く愛し、識る、木之下氏ならではの一冊です。

帝国の城塞 東山幸弘氏による『帝国の城塞』は、明治から昭和期までに本土防衛のため全国に建設された要塞を撮った写真集です。

1945年の敗戦までは秘密のベールに包まれ、その後は多くが放置されたままであるという要塞を、東山氏はモノクロームの繊細なマチエールで表現しています。息をのむような静謐な光景は、作者の「記録は記憶を喚起する」という言葉どおり、さまざまな想いを呼び起こすことでしょう。

THE VOID 『THE VOID』は、北極から南極までの人力での縦断、世界最年少での世界7大陸最高峰の登頂(当時)などで知られる、冒険家の石川直樹氏による写真集です。

先住民マオリの聖地として受け継がれているニュージーランドの森を撮った本書には、「ONE FOREST IS ALL FORESTS(ひとつの森は、すべての森)」という文字以外のキャプションがありません。しかし、たんたんと展開されていく写真は、すべての自然や生命へとつながっていく聖地としての森を、どんな言葉よりも雄弁に、じっくりと感じさせてくれます。

カンボジア 希望の川 子供たちの詩 『カンボジア・希望の川・子供たちの詩』は、ベトナム軍がカンボジアへ侵攻した1979年からカンボジアの取材を続けてきた報道写真家、三留理男氏による、カンボジアレポートの集大成です。写真家人生の半分以上となる26年間をカンボジアにこだわってきた三留氏は、こう言います。

〈本書を含めた私のカンボジアレポートには、社会の頂点にいる人は登場しない。底辺近くにいる人ばかりであり、言いかえれば20数年前に「助けて」と叫んでいた人たちである。…そうした人たちは今、何を言いたいのか。それは写真の中の彼らに、問いかけていただきたい〉

三留氏の強く優しいカメラアイから、希望の川、子供たちの詩というタイトルに込められた深い想いが、ひしひしと伝わってくる写真集です。

梅里雪山 十七人の友を探して 『梅里雪山・十七人の友を探して』は、日本の海外登山史上最悪となった梅里雪山の遭難の、遺体捜索活動に携わり続けてきた小林尚礼氏が、その経験と思索の軌跡を、写真と文章で綴った一冊です。出来事や出会いに誠実に向き合っていく作者の姿勢が、胸を打ちます。

名作写真館 4巻 星野道夫「アラスカ」 (小学館アーカイヴスベスト・ライブラリー) 名作写真館 小学館アーカイヴスベスト・ライブラリー (13) 小学館から、『名作写真館』シリーズの刊行がはじまりました。手頃な価格、写真家別の巻立てで、薄手ながら大判で見応えがあり、写真家の仕事に気軽に親しむことができる企画です。9月まで順次全30巻が刊行される予定ですので、気になる一冊を手にとってみてはいかがでしょう。

発掘カラー写真 昭和30年代鉄道原風景 路面電車編 『発掘カラー写真・昭和30年代鉄道原風景・路面電車編』は、駐留米軍将校として来日し、数多くの鉄道を撮影していたJ.W.ヒギンズ氏の未発表写真を編んだものです。この時代のものとしては、ひじょうにめずらしい鮮やかなカラー写真は、懐かしいだけでなく、新鮮であり、貴重な記録でもあります。路面電車編のほかに、国鉄編、東日本私鉄編、西日本私鉄編が出版されています。

small planet 『small planet』は、現実の風景を、まるでミニチュアのように撮る作風で話題になっている若手写真家、本城直季氏のはじめての写真集です。技法的にも興味深いものがありますが、その技法を育んだ発想のしなやかさがういういしく、新しい感性の登場を感じさせます。

脱「風景写真」宣言 二〇一〇年の花鳥風月 『脱「風景写真」宣言』は、写真家である宮嶋康彦氏のエッセイ集です。自身の体験をもとに、自然を撮ることをめぐって書かれていますので、とりわけ写真を撮る人には、参考になるだけでなく、大いに刺激になる一冊です。