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[書評:写真家とは違ったまなざし・吉田元『神々の残映』『北回帰線の北』/日本カメラ2006年12月号:217]


神々の残映 沖縄・八重山・1963 北回帰線の北

2005年4月に他界した吉田元の写真集が2冊出版された。

『神々の残映』は、1963年にテレビのドキュメンタリー撮影に同行して、約70日間滞在した沖縄八重山諸島での写真をまとめたもの。『北回帰線の北』は、88年から2001年にかけて撮影され、まとめられていた写真を、遺族の意向により写真集にしたものである。

この2冊の写真集に収められた人と風景の写真は、たいへん貴重なものだろう。だが、それだけではなく、見る者を吸い寄せるような、不思議な魅力がある。スナップショットのように撮られた写真には、しっとりとしたモノクロームのなかに、美しいフォルムが浮かび上がる。そのフォルムはフレームにはめこんだような造形的なものではなく、ごく自然なものなので、瞬間を捉えながらも動きがある。このような写真を撮った作者とは、どのような人物なのだろうか。

1930年愛媛県に生まれた吉田は、大学卒業後、北海道根室原野に渡り、自然風土のなかに暮らしながら、文筆・写真撮影・鳥類研究の日々を過ごした。そうした暮らしから、『カラスの四季』『原野の四季』『鳥と森と草原』『牧場の四季』『牧人小屋だより』といった本を、周はじめという名前で出版。これらのなかには、数学者の秋山仁が人生に影響を与えた本として挙げているものもあり、著作の魅力がうかがわれる。そしてこうした活動の後、『神々の残映』の写真を撮影。80年代には編集のアドバイザーを務めつつ、『北回帰線の北』の撮影を開始するほか、日本で初めて野生動物を撮ったといわれる下村兼史の再評価に力を入れている。

このような略歴からわかることは、ごくわずかにすぎないが、ひとつだけはっきりしているのは、いわゆる写真家と呼ばれる人々とは、まったく違った人生を歩んでいたことだろう。それゆえに、吉田のまなざしもまた、いわゆる写真家とは違った何かを見ていたのだろう。その独特のまなざしが死によって閉ざされたことは、いかにも惜しい。だが、この2冊の写真集の上梓によって、ゆるやかに舞うようなカメラワークは、生き続けるに違いない。