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[書評:カーブの先の見えない世界に惹き寄せられて・中里和人『R』/日本カメラ2006年11月号:211]


R よい写真とは何か。ひとことで言うのは難しいと言われる。だが、そんなことはないと思う。それを見たあとでは、世界の見え方が変わってしまうような写真、それがよい写真である。

では、よい写真を撮るのが、優れた写真家だろうか。必ずしもそうではない。写真というものは、偶然撮れてしまうことがあるからだ。何だかわからないがよい写真が撮れてしまうのではなく、意識的によい写真が撮れる写真家、それが優れた写真家であろう。

写真集『R』を見ると、そこにあるのがいい写真であり、また、作者の中里和人が優れた写真家であることが、たちどころにわかる。

カーブを撮った写真を対称的に並べた、ただそれだけの写真集だが、これを見たあとでは、眼にするあらゆるカーブが中里の世界のもののように見えてしまう。中里の言う、

「カーブの先の見えない風景に惹き寄せられ、この世の結界を越えていく浮遊感がやってくる」

という感覚が、自然と押し寄せてくるようになるのである。

意識的に、というのは、理屈をつける、ということではない。新たなイメージとことばの関係を見出す、ということだ。たとえばタイトルになっている『R』。本書は、カーブの風景を、きわめて豊かなものにしていると同時に、Rという一文字に、これまでにないイメージを与えている。

「曲り、隠れ、消え、トリップしながら、此岸を離れて別天地へ誘う『R』」

こうした明快で美しいことばは、意識的でなかったらけっして出てこないものだろう。

優れた写真家による、よい写真は、写真とは何かを直感的に教えてくれる。写真集『R』のカーブの先にあるのは、豊饒な写真の魅力でもある。