texturehometext archivephoto worksaboutspecialarchive 2ueno osamu

[書評:銀塩写真時代のカメラマンスケッチ・丹野清志『写真屋稼業』/日本カメラ2006年10月号:215]


写真屋稼業 『写真屋稼業』は、雑誌カメラマンとして40年以上仕事をしてきた丹野清志が、これまでの経験を徒然に綴ったものである。あとがきで著者は、こんなふうに述べている。

「でもまあこれは居酒屋で酒飲みながら話すカメラマンのつぶやきみたいなものですから、雑談という感じで読んでいただいて、堅いことは抜きにしましょう。時代を振り返るとなればじっくりと時間をかけて書くべきなのだろうけど、根を詰めて写真を撮るというのは苦手で、撮る時もレンズを替えたり絞りを変えたりカメラアングルを変えたりして撮ることもなく、ひょいとカメラを構えてシャッターをきるというスタイルですから、文章を書く作業も一気にいってしまわないと脱線して混乱してしまう。そんなふうだから、銀塩写真時代のカメラマンスケッチという感じで書きました」

あとがきというのは、自著について控え目に表現されていることがままあるが、このあとがきの場合は、別にそういうわけでもない。つまり本書は、ほんとうに、まるで居酒屋でのとりとめのないつぶやきのように書かれているのである。

日本では、会議や打合せでは、大切なことが話されないことが多い。では、どこで話されるのかというと、さっきはああ言ったけどね、こういうことなのよ、といった具合に、居酒屋で一杯やりながら、大切なことが決まっていたりするのである。それが良いのか悪いのかわからないが、この居酒屋文化の困った部分は、話の大切な部分が残らないということだ。

しかし、居酒屋のつぶやき風に書かれた『写真屋稼業』には、そうした、普通は残らない話の大切な部分が、たっぷりと記されている。1944年生まれの丹野は、雑誌のスタッフカメラマンとして6年間勤めたあと、70年にフリーランスになった。60年代後半から今日にいたるまでの時代というのは、雑誌とカメラと写真が黄金期をむかえ、大きく変動していった時代である。本書は、この重要な時代についての、もっとも率直で貴重な記録となることだろう。

こういう正直な話は、誰にも書けそうで、書けるものではない。「あったかい味噌汁と一膳飯がありゃあいいじゃないか」と言って、それをサラッと書いてしまった、丹野の心意気が光る一冊だ。