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[書評:中古良品とは実は「達人の脱力技」である・赤瀬川原平『祝!中古良品・アカセガワ版養生訓』/日本カメラ2006年8月号:193]


祝!中古良品 アカセガワ版養生訓 赤瀬川原平の『祝!中古良品』に綴られているのは、カメラの話、ではなく、副題に「アカセガワ版養生訓」とあるように、人体の話である。

「中古」「新同」「レンズ曇りあり」「研究用」。こうしたカメラ用語を人体に当てはめてみると、ドキっとする。著者も、主治医から「あなたは立派な中古人体です」というハガキを受け取ったとき、「ウッ」と詰まった、と書いている。だが、中古カメラの魅力を知っていたので、その抵抗感はすぐ消えたと言う。人体には「未使用」や「未開封」がありえない以上、「中古良品」こそがいい塩梅なのである。

こうして本書には、「中古人体」といい塩梅に付き合っていく、さまざまな心の持ち方が書きとめられているのだが、なかでも興味深いのは、左翼に関するくだりである。

〈左翼がかっこよかった時代って、確実にあったと思う。左翼というのは、ある種のファッションでもあるのだ。夜更かしも左翼だし、タバコも左翼だ。大酒飲みも左翼だ。女性関係が紊乱(びんらん)しているのも、なんだか左翼だ。議論するのは完全に左翼ですね。「左翼の風情」として、そうしたものがある。貝原先生の言説を借りると、左翼は養生にはならないと思います〉

これほどあっさりと、左翼の特徴を言い切った文章がほかにあるだろうか。左翼の風情は養生にならない。若き日にお札を描いた人の言葉だけに、言い得て妙である。ちなみに、当時起こした胃けいれんについて、著者はこう言っている。

〈あれは明らかにストレスだったと思う。千円札の模写みたいな、バカなことをやっていたから仕方がない。徹夜、徹夜でね〉

元左翼のハンパな武勇伝ほど鬱陶しいものはない。しかし、著者は最高の武勇伝になるような話でも、バカなこととサラリと流す。この爽やかな脱力具合。できそうで、なかなかできることではない。一流の剣客は、戦わずして勝つと言われるが、それに通ずるものがある。本書を読んでいると、自分もいつの間にか、この達人の脱力技が身についたような気分になって、何とも心地よい。