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[ブックレビュー/nikkor club #193 2005 summer:96-97]


レンズに映った昭和 (集英社新書) 『レンズに映った昭和』は、『ヒロシマ万象』や『花嫁のアメリカ』といった仕事を通して、日本の戦後の声なき声を写真によって浮かび上がらせてきた江成常夫氏が、自らの仕事の展開を記した新書です。日本とアジア諸国の歴史の認識の溝が問題になることが多い昨今ですが、その根底にあるのはまさに、「日本の今は昭和の十五年にも及ぶ戦争の時間が断絶されたまま進行している」と江成氏が指摘するような、いびつな日本社会の現状でしょう。本書に綴られた、草の根の人たちの声を代弁し続けてきた、孤高の写真家の仕事の展開が感動的なのはもちろんのことですが、日本の現代史を捉え返すうえでも、欠かすことのできない必読の一冊と言えましょう。

影絵の戦い 9・11以降のイメージ空間 『影絵の戦い 9・11以降のイメージ空間』は、写真家でもある港千尋氏が、現代の戦争とイメージの関連を考察した評論集です。「『9・11』以降、イメージは戦争を常態化するために強く働くようになっており、わたしたちは無数の合わせ鏡のなかで、現在進行中の出来事を認識するような困難を抱えている」。このように述べる港氏もまた、映像に携わる者の役割を、「イメージを読み解くこと、そのための方法を考えることは、イメージをつくった者の責任に他ならない」、と主張しています。とかく興味本位なものに流れがちな映像文化において、写真家によるこうした警鐘は、とても貴重なものではないでしょうか。

scars 『SCARS』は、石内都氏による、ふだん人目にさらされることのない身体の傷あとを捉えた写真集です。クローズアップによって写真に定着された傷あとは、具体的な身体から切り離され、抽象化されており、それゆえに、見る側の想像力を触発し、さまざまな物語を想起させるものになっています。写真の力を感じさせる一冊です。

長屋迷路 小屋や路地など、日本の懐かしい光景の写真で知られる中里和人氏による『長屋迷路』は、東京・向島界隈の風景を編んだ写真集です。この写真集では、写真が断片的にトリミングされ、写真そのものも迷路のように構成されていますが、そうした試みが中里氏の細やかなまなざしとうまく絡み合い、相乗効果を生んでいるのが魅力的です。

越後の棚田 原風景に佇むとき 山本一写真集 『越後の棚田原風景に佇むとき』は、中越大震災直前までの山古志村をはじめとする中越地方や上越地方から佐渡島までの棚田を、山本一氏が丹念に撮り集めた一冊です。山本氏は、たんにフォトジェニックだからという理由だけで棚田に惹きつけれたわけではなく、自然と共生する日本人の生活の原風景として、棚田を撮り続けてきました。だからこそ、風景への愛情が滲み出ている写真が、たぐいまれな美しい棚田の記録にもなっているのです。そうした被写体への姿勢はもとより、詳細な撮影データも記されている本書は、風景写真の探究のために、大いに参考になる写真集でもあるでしょう。

東京いつか見た街角 河出書房新社の「らんぷの本」というシリーズから、興味深い写真集が出版されています。『東京いつか見た街角』は、昭和9年に日本橋の呉服橋に生まれ、14歳の頃に写真をはじめた持田晃氏が、昭和20年代から50年代にかけて撮った東京のスナップショットを編んだ写真集です。持田氏は、撮影年月日と場所を記入して、白黒フィルムをカステラの杉箱に入れて保存しておいたそうで、写真を撮り続けながら、しっかりと整理・保存をしていたことが、こうした写真集へとつながっています。

吉祥寺 消えた街角 『吉祥寺消えた街角』は、井の頭に住み、新聞社の社外カメラマンとして武蔵野風物を撮り続けた土屋恂氏の写真から、昭和40年代の吉祥寺の風景を中心に編んだ写真集です。こちらの写真集も、「今でも、私から写真を除いたら何もない、何も残らない生活である」述べる土屋氏だからこそ、過去の写真が現在に生きた好例だと言えましょう。写真を楽しみ、長く続け、しっかりと保存することは、簡単にみえてなかなかできることではありません。だからこそ、それがとても価値がある行為だということを、この二冊は教えてくれている気がします。

カメラの雑学図鑑 デジタルカメラが急速に普及してきた今日、その大きな変化に戸惑いを覚えている方も多いのではないでしょうか。カメラの生き字引とも言われる豊田堅二氏が、カメラにまつわるこぼれ話を書いた『カメラの雑学図鑑』は、たいへん面白く読めるだけでなく、読んでいるうちに自然とカメラの歴史や技術が理解できる一冊です。クラシックカメラから、最新のデジタルカメラまで、フィルムとデジタルの垣根を超えて書かれているさまざまなエピソードは、今日の変化を理解する助けにもなるはずです。

はじめてのデジタル一眼レフ (岩波アクティブ新書) 『はじめてのデジタル一眼レフ』は、写真だけでなくビデオカメラやパソコンにも詳しく、初期からデジカメの進化を追ってきた伊達淳一氏による新書です。見かけは35mm一眼レフとよく似ているデジタル一眼レフですが、調べていても耳慣れない用語が多く、じっさいに使用してみても異なる点が少なくないものです。購入前に知っておきたい基礎知識から、デジタルならではの撮影術、整理・保存、ソフトの紹介までをトータルに解説した本書は、ちょっとした疑問を解消してくれるだけでなく、デジタル一眼レフの性質を理解し、具体的なノウハウを身につけるのに、大いに役に立ってくれそうな一冊です。

デジで本 デジカメ×写真×製本 自作写真集のつくりかた デジタルの普及で大きく変わったことのひとつは、撮影からプリントまで自分で出来るようになったことでしょう。デジタルによる少部数写真集の作り方を丁寧に解説した、横木安良夫氏の『デジで本』は、そんな今日ならではのトータルな写真との関わり方を実践したい方には、ぜひともおすすめしたい新時代の入門書です。