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[BOOK REVIEW:新着写真集紹介/nikkor club #191 2005 early spring:116-117]


ZONE 郊外・事件の記憶 秋山忠右写真集 『ZONE―郊外・事件の記憶』は、一貫して東京を都市論的文脈から捉え続けてきた秋山忠右氏による新作です。本書に収められた写真はいっけんどれもありふれた郊外の風景ですが、「押入に6乳児白骨体」「女性の箱詰め変死体」といった写真に添えられたキャプションが示すように、じつは事件の現場の光景でもあります。秋山氏は巻頭で、こう述べています。

「都心から半径40キロ、環状8号を越えて国道16号に至る地域に、新種人の住むニューワールドの世界が広がる。今迄存在しなかった生活空間、これらの場所で排泄され発汗され続ける犯罪。それらの犯罪は、ごく普通の生活者がひきおこし、風俗化して、日常の風景が、ある日突然非日常に変わり、時と共に風化して埋没する」

本書が展開している風景は、ニュースで目にするような生々しさが演出された現場ではありません。"普通の生活者"が引きおこす事件は、ありふれた風景を一瞬非日常的なものに変えるものの、風景はすぐさま何ごともなかったように日常へと回復されていきます。秋山氏が着目したのは、この"日常"の不気味なほどの"普通"さにほかならないでしょう。痕跡すら残さない、現代の事件の痕跡を丹念に拾い集めて定着した本書は、まさに写真でしかできない記憶のドキュメントになっています。

戦争とフォト・ジャーナリズム (岩波フォト・ドキュメンタリー世界の戦場から) 『戦争とフォト・ジャーナリズム』は、広河隆一氏が総編集を務めた『岩波フォト・ドキュメンタリー 世界の戦場から』全11冊の別冊として刊行された、今日のフォト・ジャーナリズムのあるべき姿について正面から論じた一冊です。「そうしたところ(危険なところ)にこそフリーランスのジャーナリストは行かなければならない。何が起こっているかを伝えることが、人々をとりまく危機的状況を解決する道だからだ」、と言う広河氏は、次のように本書を締めくくっています。

「危険だから止めろといわれて止めていたら、私の今までの取材のほとんどはなりたたなかった。危険なところで何が起こっているのかを人々に知らせたくない人は、その危険な状態を作り出した人々か、それに連なる人々だけだ。フォト・ジャーナリストが仕事を失うことは、人々が世界で何が起きているのかを知ることができなくなることを意味する。今問われているのは、ジャーナリスト不在の状況を変えることと同時に、ジャーナリスト自身が本来の基本に立ち戻って、自らを鍛えなおすことなのではないだろうか」

"被害者の側に立つ"という明快な視点に基づきながら、戦争とフォト・ジャーナリズムの在り方を原点から論じる広河氏の言葉は、自身の経験を踏まえたものだけに、とても説得力があります。世界が混迷する一方で、とかく場当たり的な考え方に流されそうになる今日、ぜひとも読んでおきたい本だと言えるでしょう。

下町純情カメラ (エイ文庫)  『下町純情カメラ』は、「ワンダーランド」をテーマに町のスナップショットを撮り続けている、ご近所写真家大西みつぐ氏が、下町の写真を書き下ろしのエッセイとともに編んだ写真集です。大西氏は自身の撮影スタイルを、あとがきで次のように形容しています。

 「横丁を曲がり、商店街を抜け、橋を渡りシャッターを押す。早めの銭湯に入って、縁日をひやかし、なじみの古い酒場で和む。今日はたいした収穫もなかったが、まずまずの一日だったという思いを抱く。今風のスマートな都会暮らしではない。これではそれこそ、ご近所の御隠居さんになってしまうかも知れない。なんとかしないといけないと思いつつも、まるでなにもできないまま時間が経っていく。…ただダラダラと町に関わり、気まぐれに歩き、思い出したらシャッターを押しているというのが私の実態である」

 収められた写真はどれも何気ない日常の一コマでありながら、独特の風情が漂い、町と人の温もりと情が伝わってくるものばかりです。何ごとも力を入れ頑張るよりも、力を抜いてしなやかに立ち向かう方が難しいものです。"思い出したらシャッターを押している"と言いつつ、このように絶妙の瞬間を捉えているのは、まさに町歩きスナップショットの達人ならではの技と言えましょう。巻末には丁寧な下町ガイドが地図とともに収録されているので、文庫サイズの本書をポケットに忍ばせ、大西氏のあしあとをたどってみるのもまた一興かもしれません。

デジカメ写真は撮ったまま使うな!?ガバッと撮ってサクッと直す (岩波アクティブ新書)  『デジカメ写真は撮ったまま使うな!』は、小説家、作曲家であり、デジタル関係の著作も多い鐸木能光氏が、「ガバッと撮ってサクッと直す」ことを提唱するデジカメ活用の入門書です。

 デジタル関係の入門書というと、専門的な用語や理論が次々と出てきて、実際に活用する以前にうんざりしてしまうものも少なくありませんが、「素人による素人のためのガイドブック」を自称する本書は違います。デジカメならではの特長を活かして、どんどん撮って気軽に加工する、そのための簡単な方法がきわめて実用的に紹介してあり、じっさいに使ううえで必ずしも必要でない知識は、逆にできるだけ省略してあります。また、フリーソフトを中心に解説してありますので、書かれている方法を追加投資なしで試せるのも嬉しいところです。デジタルアルバムやオンデマンド出版など、写真の発表の仕方にも一章が割かれており、これ一冊でデジカメならではの楽しみ方が何倍にも広がる、ほんとうの意味での実用書になっています。