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[ブックレビュー/nikkor club #194 2005 autumn:98-99]


新・砂を数える 土田ヒロミ写真集 土田ヒロミ氏の『新・砂を数える』は、1995年から2004年にかけて撮影された、群衆をモチーフにしたカラー作品をまとめたものです。さまざまな広い空間のなかにまばらに集っている人々の姿は、拡散しているようでまとまりがあり、まとまりがあるようで拡散している、今日の日本社会の姿をも物語っているようです。

本書の後半には、1976年から1989年にかけて撮影された、モノクローム作品の『砂を数える』も併せて収録されています。こちらの写真で印象的なのは、一点に凝縮していくような人々の姿です。この二つのシリーズの差異は、たいへん興味深いものであると同時に、ひとつのモチーフに丹念に取り組むことの重要さを示しているように思われます。同じモチーフでありながら、これほど違った作品が生まれるのは、時代を映し出す写真というメディアならではの醍醐味であることを、土田氏の仕事は照らし出しているのではないでしょうか。

ところで、『新・砂を数える』では、コンピュータ処理によって、撮影者である土田氏自身が画面にこっそりと登場しています。それがどのような意味を持つのかを考えるのも、本書の大きな見どころでしょう。

東京デーモン 『東京デーモン』は、ふだん見ることのない地下の世界を取材し、大きな反響を呼んだ『JAPAN UNDERGROUND』『JAPAN UNDERGROUND II』の作者内山英明氏が、東京の夜景を取材した一冊です。

夜景といっても、本書で展開されているのはいわゆるロマンティックな光景ではなく、闇のなかで人工的な光が浮かび上がらせる、見覚えのある風景の、昼間とはまったく違った姿です。「古代、都市国家(ポリス)の時代より歴史上に泡沫のように浮かんでは消えていったさまざまな都市と同様、TOKYOも悠久の歴史の中に鮮やかに咲いた一瞬の徒花(あだばな)にすぎない」。このように語る内山氏ならではの独自な視点がとても新鮮です。

Tokyo Freedom 大倉舜二写真集 東京の風俗の文明批評的なスナップ『Tokyo X』を2000年に出した大倉舜二氏が、その続編ともいうべき『Tokyo Freedom』を出版しました。

ジョージ・オーウェルの『1984年』に触発されて『Tokyo X』を作ったという大倉氏は、「あれから4年、時間がたつにしたがってオーウェルの『1984年』はSF思想未来小説ではなく、近未来の綿密な青写真だったのだ、と思うようになった」、と述べています。『Tokyo X』が、世紀末的な興奮と高揚に満ちていたのに比べ、『Tokyo Freedom』に捉えられているのは、どこか脱力感と倦怠が漂うポスト世紀末の東京の光景です。写真には写りにくい、そうした気分のようなものを射抜いた、鋭いカメラアイが光る写真集です。

棄景/origin 丸田祥三氏の『棄景/origin』は、東京とその近郊の廃墟・廃線・廃車をめぐった『棄景/廃墟への旅』と『棄景II』、古の東京の面影をもとめて全国各地をめぐった『東京/棄景III』に、未発表作を加えて編まれた、集大成的一冊です。とかく新しいものばかりに目がいきがちな現代にあって、遺されたものに徹底的にこだわったモノクロームの写真は、いぶし銀のような魅力に満ちています。

エチオピア黙示録 野町和嘉写真集 『エチオピア黙示録』は、灼熱の砂漠に取り囲まれた孤立した高原で、独自のキリスト教文化を育んできたエチオピアを、9回にわたって訪問、延べ426日滞在した野町和嘉氏による写真集です。野町氏が、「ここに収録するのは、多難な時代を懸命に生き抜いた人々の、光と闇の記録である」と述べるように、「深い祈りと、心に沁み入る情緒」と「飢餓という黙示録的終末」を静謐に捉えた写真は、人間や文明の在りようについての深遠な思索であるともいえるでしょう。

写真集 里山に育む 和紙の町 分校の日々 大木春雄氏の『里山に育む』は、2003年4月に休校となった、水と緑豊かな和紙の町として知られる埼玉県小川町の下里分校の、子どもたちの四季を追った写真集です。大木氏のやさしいまなざしによって捉えられた、古き良き時代の学校そのもののような日々の情景は、下里分校に通った子どもたちのかけがえのない記録であることはもちろん、多くの人々の記憶へとつながる、普遍的な記録でもあるでしょう。

光と風のシンフォニー 石井孝親自然写真作品集 (NC photo books) 石井考親氏の『光と風のシンフォニー』は、里山や公園、庭など、身近なフィールドで撮影された自然の営みを編んだ写真集です。対角線魚眼から超望遠までを駆使するという石井氏ですが、「自然写真は被写体の記録ではなく、感動や驚きが写真に写り込む」という信念から生まれた写真は、技巧を感じさせず、自然のざわめきが聴こえてくるような味わいがあります。

おとなの鎌倉散歩「花と祭り」 『おとなの鎌倉散歩』は、鎌倉をライフワークとする宇苗満氏が、花・みほとけ・祭礼をテーマとする写真約200点を、コラムや古都散策・一年間の祭礼行事の情報とともに編んだ一冊です。一味違った鎌倉案内である本書は、写真集としてもとても見応えのあるものであり、ページをめくる度に写欲がかきたてられることうけあいです。

Japと呼ばれて 『Japと呼ばれて』は、第二次世界大戦中、米兵として従軍した日系二世部隊を二十年余りにわたって取材してきた宍戸清孝氏の、写真と文章による一冊です。宍戸氏によって粘り強く紡がれた、「日本人の血を受け継ぎながらも米兵として出兵したという人々の数奇な宿命」のルポルタージュは、けっして忘れてはならない過去の、現在への貴重な架け橋でもあります。