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[デジタル時代のストロボテクニック・プラス1万円でのぞみどおりの写真ができる/日本カメラ2005年11月号:146-152]




銀塩時代、ストロボを使いこなすことは、もっとも難しいテクニックのひとつだった。一瞬しか光らないストロボの光を読むには、プロですら、高価なフラッシュメーターと、豊富な経験が必要だったのだ。しかし、デジタル一眼レフが普及して、事情は一変した。その場で写りを確認できるデジタルなら、さまざまなライティングを試しながら、思いのままに光を操ることができるのだ。しかもストロボは、実売一万円前後から手に入る。今、もっともコストパフォーマンスの高い、一味違う写真を撮るためのツール、ストロボを使わない手はない。デジタル時代ならではの、ストロボ撮影の超基本から応用テクまでを紹介しよう。

距離

 屋外の光、自然光を思い浮かべてみよう。ほとんどの場合、太陽は斜め上にあるだろう。ストロボを使った写真で、斜め上からのライティングがもっとも自然に見えるのは、私たちがふだん斜め上からの光線を見慣れているため。逆に、内蔵ストロボなどで撮った写真が、のっぺりして不自然に見えるのは、真正面からの光が自然光にはないからだ。
 きわめて遠い光源である太陽に比べて、ストロボの光は被写体からひじょうに近い。くわえて、発光面積の狭い点光源なので、影が強調される硬い光でもある。そのため、顔の凹凸程度でも、明るい部分と暗い部分の差が出てしまう。被写体からなるべく遠くで発光させることで、そうした明暗差は少なくなる。
 こうした基本を覚えておくことは、自然に見える写真を撮るのに役立つだけでない。あえて不自然なライティングで、変わった写真を撮るときの目安にもなる。また、ライティングを意識してストロボを使うことは、自然光を読むトレーニングにもなるのである。

バウンス

 バウンスとは、球技などで使うバウンドという言葉と同じ意味。つまり、当たってはねかえるということ。ストロボの場合、球技と違って、当てるのは地面ではなく天井だ。ストロボの硬い光を、柔らかい光にするには、点光源を面光源にすればよい。ストロボの光を天井に向け、拡散した光を被写体に当てるバウンス技は、もっとも手軽に面光源を作ることができるテクニックである。また、被写体に直接光が当たらないので、撮られている
人の目にやさしいというメリットもある。
 しかし、バウンスには弱点もある。色のついた天井だと写真にその色がカブってしまうし、高い天井だと戻ってくる光が弱すぎて使えない。撮影時には天井の状態に注意しよう。

ディフューズ

 ディフューズとは、拡散させるという意味。ストロボの場合は、光を拡散させて柔らかくすることを、ディフューズすると言い、そのための用具をディフューザーと呼ぶ。よく、ストロボに直接トレーシングペーパーやガーゼなどを被せているのを見かけるが、これは効果が薄い。発光面積を大きくして面光源にするには、ストロボとディフューザーの距離が離れていて、ディフューザーも大きい方が効果的なのだ。機動性は落ちるが、傘を使った作例のように、ストロボと被写体の間でディフューズすると、効果抜群。
 自前で面光源を用意するディフューズ技は少々面倒だが、バウンスと違って、撮る場所に左右されないのがいいところだ。



プロの仕事・多灯ライティング

 多灯ライティングは、用具的には意外に敷居が低い。すでにストロボを複数持っていればスレーブユニットを使えばいいし、リモートライトといった名称のスレーブ専用のストロボを使えば、コードレスで簡単に多灯ライティングにチャレンジできる。
 敷居は低いが、使いこなしはなかなか難しい。多灯ライティングで一番陥りがちな失敗は、ストロボを何台も使っているうちに混乱して、自分でもどの光を何のために使っているのかわからなくなってくること。自然光では太陽は必ずひとつであることを考えればわかるように、光が入り乱れたライティングはひじょうに不自然になる。多灯と言えど、ストロボが多くて、複雑なライティングがいいわけではない。メインの一台のストロボに対して、目的をはっきりとさせた補助光として他のストロボを使うことを、しっかり意識しよう。

プロの仕事・フィルター&色温度

 デジタルと銀塩のもっとも大きな違いのひとつは、ホワイトバランスの調整によって色温度を自在に指定できることだろう。デーライトとタングステンしか色温度の設定を選べないフィルムと違って、デジタルなら一枚ずつ色温度を変えて設定することも可能だ。ストロボの光の色調に満足できない時は、色温度の設定を調節することによって、好みの色調に近づけることも簡単にできる。
 色温度の設定は、屋外でストロボを使って日中シンクロする撮影する場合にも大きな武器になる。ストロボにフィルターをかけ、色温度を調節することによって、背景と被写体の色味を別々にコントロールすることも可能になるのだ。



用語

・ガイドナンバー(GN)
ストロボの光量を表す値。ISO100の場合、f値=ガイドナンバー(GN)÷距離(m)となる。例えば、ガイドナンバー24のストロボをフル発光させたとき、3m先の被写体を撮るときのf値は8。大は小を兼ねるので、ガイドナンバーが大きくて、光量の手動調節ができるストロボを買った方が、撮影の幅は広がる。

・スレーブ
スレーブ(slave)とは奴隷の意。と書くと聞こえが悪いが、メインのストロボの発光を感知して、それに従い同調(シンクロ)して発光するストロボなので、スレーブと呼ばれている。スレーブ(slave=従)とマスター(master=主)という用語は、パソコンなどでも使われることがあるので覚えておこう。

・シンクロ
ストロボでは、同調・同期という意味のシンクロという言葉が、さまざまな場面で使われる。ストロボをカメラに接続するコードはシンクロコード、接続のためにカメラについている接点はシンクロ接点。夜景と人物などを撮るために遅いシャッタースピードでストロボを発光させることをスローシンクロ、自然光のなかで補助光としてストロボを使うのを日中シンクロと呼ぶ。ちなみに、一眼レフのスペックでは、X=1/200というふうにシンクロスピードが書かれていることがある。これはストロボが同調する最高速で、これ以上のシャッタースピードで撮影すると、シャッター幕の影が写ってしまう。古い銀塩一眼レフではX=1/60といったものもあるので注意しよう。