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[プレビュー:写真を通して異文化に触れる絶好の機会・『ドイツ写真の現在』『アウグスト・ザンダー展』/日本カメラ2005年11月号:315]


 半世紀以上前、写真は人類の共通語だと言われた時代があった。しかし、その後さまざまな国で展開されていった写真表現を見てみると、必ずしもそうとは言えないことがわかる。写真は言語と同じくらいに、それぞれの国の社会や文化を色濃く反映しているものなのである。とはいえ、写真は何がどのように写されているかが一目瞭然なので、言語よりはずっと間口が広い、異文化への入口だとも言えよう。

 東京国立近代美術館で開催される『ドイツ写真の現在』は、ドイツ現代写真の巨匠ベルント&ヒラ・ベッヒャー、彼らのもとで学んだベッヒャー派と呼ばれるアンドレアス・グルスキー、独学で写真を学んだミヒャエル・シュミット、デジタル加工によって作品を制作するハイディ・シュペッカー、ロレッタ・ルックスなどベッヒャー派以降の若手、ロンドンに移住しユースカルチャーの寵児となったヴォルフガング・ティルマンスなど、写真表現で多彩な展開を繰り広げる10人の現代作家を紹介する企画展。日本で紹介される海外の写真表現は、アメリカのものか、アメリカを経由したものである場合が多いが、ドイツはアメリカと同じくらいに、独自の写真表現が脈々と育まれてきた国。感覚的になじみのあるアメリカ写真とは違った、現代ドイツ写真のオリジナル作品に接することができるこの展覧会は、写真を通して異文化に触れる絶好の機会になるだろう。

 同時開催される『アウグスト・ザンダー展』も、要注目だ。ザンダーは、あらゆる階層や職業の人々の肖像写真によってワイマール時代のドイツ社会を描き出す、“二十世紀の人間たち”という壮大なプロジェクトを構想したことで知られる写真家。けっきょくこのプロジェクトは未完に終わったが、構想の見取り図として1929年に出版された写真集『時代の顔』は、戦後のドイツ写真にも大きな影響を与えることになった。写真集に収載された六十点の写真が展示される今回の展覧会では、ザンダーの冷徹なまなざしによる肖像写真のなかに、ドイツ写真独特の硬質な客観性の源流を感じ取ることができるはずだ。

 百聞は一見にしかず。近代・現代ドイツ写真の違和感をじかに受け止めることは、社会や文化の多様さを体感することにつながるに違いない。『ドイツ写真の現在』と『アウグスト・ザンダー展』は、芸術の秋に、ぜひおすすめしたい展覧会だ。


ドイツ写真の現在― かわりゆく「現実」と向かいあうために
Zwischen Wirklichkeit und Bild : Positionen deutscher Fotografie der Gegenwart
アウグスト・ザンダー展
August Sander: Face of Our Time
東京国立近代美術館
2005年10月25日(火) −12月18日(日)