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[時評17:好き/photographers' gallery 2004.06.30:http://www.pg-web.net/]


 いつの頃からか、心の中で奇妙に重なってしまうイメージがある。

 ひとつは、紺色のスーツを着た背の高い西洋人の男たちが自転車に乗って「あなたはぁかみをぉしんじますかぁ」と言っているイメージだ。そういう光景を見たことがあるわけではない。小学生の間でその男たちがそう言っている物まねが流行っていただけで、じっさいにはその男たちは「ハローハロー、ジスイズアペン、ハロー」と言って逃げていく小学生たちを、ただ微笑ましそうに見ていたのだった。

 もうひとつは、若い人の写真を見るたびに話の途中で唐突に得意満面の笑みを浮かべて「あなたは写真が好きですか?」と必ず問う男のイメージだ。その質問が何を意味しているのか全く理解できなかったが、おぞましいものを見てしまったという、どうしようもない後味の悪さのみが澱のように残っていたことを覚えている。

 このふたつのイメージが重なって、「あなたはぁしゃしんをぉしんじますかぁ」という遠い声が脳裏をふとよぎり、苦い笑いが漏れてしまう。

 そういえば、「あなたは写真が好きですか?」と問う男は、神を信じるということをつねに嘲笑していた。男は何を信じていたのだろうか。自分を信じられないことは悲しいことらしい。だとすれば、そのように問う自分自身を信じていたのだろうか。あるいは、好きだということはその男にとって、何も信じる必要がないくらい素晴らしいことだったのだろうか。
 そうではないだろう、その男にとって写真を好きかどうかを問うことは、こういったことを考えるまでもない行為であったに違いない。なぜなら、男にとってその行為こそがあらゆるイデオロギーを否定していることの証であり、その実践であり、それゆえにそれはイデオロギーそのものでありえたのだろうから。

 遠い声が消えることなく脳裏をよぎるように、今日も男はどこかで同じ問いを発してるに違いない。