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[BOOK REVIEW:新着写真集紹介/nikkor club #188 2004 spring:102-103]


 『PHOTO NOMAD』は、「LIFE」誌での活躍や、晩年のピカソと親しく交友しその私生活を撮ったことで知られる世界的な写真家、デイヴィッド・ダグラス・ダンカンの自伝的な写真集です。
 17歳にして、犯罪者ジョン・デリンジャーやタクソンのホテル火災を撮影し注目を集め、その後パレスティナとギリシャの市民戦争、モスクワのクリムリン宮殿の秘宝、1968年の歴史的な大統領選挙など、さまざまな題材を取材し、朝鮮戦争の写真では、近代写真の巨匠エドワード・スタイケンをして「究極の戦場写真」と言わしめたこともあるダンカンは、まさに20世紀の目撃者であるとともに、写真と社会の関係を体現してきた、伝説的と呼ぶにふさわしい写真家であると言えましょう。また、ダンカン氏は、日本を訪れたことも多く、三木淳氏を通して知ったニッコール・レンズを用いて撮影した、朝鮮戦争に従軍した時の写真が「LIFE」誌の表紙を飾り、世界にニッコール・レンズの秀逸さを知らしめるきっかけを作るなど、日本やニコンに大変ゆかりの深い写真家でもあります。
 ダンカン氏自身によってコメントが書かれ、デザインされ、小説的な形態で編まれた本書は、写真が編年体で収められたいわゆる回顧的写真集とは違って、写真に込められた作者の深い思いが伝わってくる、とても味わい深いものに仕上がっています。ページを捲っているうちに、人間とは何か、写真とは何か、写真に何ができるのかということを思わず考えさせられる一冊です。
 「ナショナルジオグラフィック」誌は、アメリカ雑誌史上はじめて全ページをカラー写真にするなど、ヴィジュアル文化を先導してきた雑誌として知られていますが、1888年の創刊からの膨大な記事から、資料的価値に溢れた記事をテーマ別に再構成した「アーカイブ・ブックス・シリーズ」の発行がはじまりました。『ナショナルジオグラフィックが見た 日本の100年』は、そのシリーズ第一弾です。
 今回セレクトされた1894年から1991年までの約40本の記事と写真は、「世界に目を開いた明治新国家の指導者(1894)」「シンプルライフこそ日本人の暮らしの原点(1911)」「若い米国人の日本全国貧乏旅行記(1936)」「新しい太陽が昇る戦後日本の国民生活(1946)」「“五輪ブーム”に沸く世界一の都市トウキョウ(1964)」「世界一の債務国ニッポン、円高による幻想(1991)」など、どれも興味深いものばかりです。
 "百聞は一見にしかず"と言いますが、本書の力がこもったヴィジュアルは、私たち日本人の過去を鮮明に浮かび上がらせています。懐かしい光景が多く収められているだけではなく、世界が見た日本の姿の記録でもある本書は、ふだん忘れがちである私たち自身の歴史を振り返るきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。
 『VANISHING LIGHT』は、スナップ・ショットを撮り続けている気鋭の現代写真家、豊原康久氏による待望の新作です。本書に収められている文章で、淡海千景氏は次のように述べています。
 「主題が先行しない、理屈が後追いしない、挿絵にならず、思想に置換されず、概念に逐語訳なされず、一対一のイメージに拘束されない。最も厳粛に受け止められた際の、拠る辺のなさが、却って引き立てる写真というものの力を、彼は描き出し、駆使しようと試みているようだった。撮る写真自体もそうであれば、写真一般についても説明や、叙述しようとしていない。…様々なことのいきさつに、人の意のままにならない波長の質を痛感するから、突き詰めて彼に出来るのは、波頭の高いところで身を翻し、投げ入れた時間もろとも写真に化す、その所作だけなのだ。」
 街頭での写真をまとめた前作『Street』から10年ぶりの2作目となる本書では、海とその周辺がスナップ・ショットのモチーフになっていますが、シンプルなシチュエーションで撮られている分、人々と風景が織りなす光景の不思議な一瞬を捉える独特のカメラ・ワークが、いっそうきわだってきているように思われます。写真でしか捉えることのできない、瞬間としての現実が鋭く照らし出されている魅力的な写真集です。
 『クラシックカメラ便利帖』は、その道30年という馬淵勇氏が、初心者にもわかりやすくクラシックカメラをさまざまな角度から説いた新書です。
 カメラの電子化、そして昨今のデジタルカメラの登場で、カメラの世界も大きく変わりつつありますが、そうしたカメラのオートマチック化によって、かつては自然と修得できた基礎的な知識も、現在では特別なものとなりつつあると言えるかもしれません。例えば、フルオートでの撮影を基本としたコンパクトカメラやデジタルカメラで写真をはじめた人にとって、カメラやレンズに刻印された数字や露出などはもちろん、巻き上げや巻き戻しレバー、フィルムの入れ方すらが謎であってもおかしくないでしょう。昔からのカメラ愛好家にとっては当たり前のそういったことも丁寧に解説した本書は、ビギナーにはもちろん、それなりのキャリアを持った人が自分の知識を再確認するためにも役立つ本になっています。また、そうした解説が結果的にカメラの歴史にもなっており、実用書としてだけではなく、読み物としても楽しめるのではないでしょうか。
 「クラシックカメラは実際に使ってこそ所有する値打ちがある」という信条を持つ著者ならではの、クラシックカメラが身近に感じられてくる一冊です。