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[BOOK REVIEW:新着写真集紹介/nikkor club #187 2004 early spring:114-115]


 『PERSONA』は、鬼海弘雄氏が撮り続けている浅草でのポートレイトをまとめた写真集です。浅草でのポートレイトはすでに、写真集『王たちの肖像』『や・ちまた』として刊行されていますが、本書は一部の写真を除き、それ以降の1998年から2003年に撮影されたもので編まれています。鬼海氏は浅草を撮りはじめた頃のことを、次のように述べています。
 「三十年前の浅草は、すでに都心の新宿や渋谷などの新しい盛り場に街の役割を取って代わられ、かつての庶民の町の賑わいはすっかり寂れ、過去のものとなっていた。時代を洗う急激な本流からはなれた無聊をかこつ町で出会うひとびとにしても、生活の匂いがするひとが多かった。育った東北の小さな農村や、卒業してから数年間その場つなぎに働いてきたトラック運転手、職工、マグロ船員などで知ったひとびとと、どこか似ていて親しみをおぼえた」
 本書のはじまりに収められた12枚の写真は、その頃に撮られたものですが、それから30年、時代は高度成長の終わりから、バブルとその崩壊、そして現在へと大きく変化してきました。80年代の終わりに、鬼海氏がはじめてポートレイトを写真集としてまとめた時には、どこか風変わりな人物を捉えた作品として受け止められることが多かったように思われますが、今回の写真集では、個々の人間の個性がより普遍的に浮かび上がっている印象があります。その理由のひとつは、80年代と現在という、写真を見るときの時代背景の違いでしょう。しかし根本的には、鬼海氏が当初の親しみという思いを手放すことなく粘り強く続けてきたポートレイトが、そもそも普遍的なものであり、ようやく時代がその普遍性を受け止められるようになってきたということが、もっとも大きな理由ではないでしょうか。このあたりが、種村季弘氏をして、「鬼海さんは、それと知らずに二十一世紀芸術の幕を切って落としているのである」と言わしめている所以でもあるでしょう。
 モノクロ3色刷りというクオリティで、160点を超える写真を収めた大判の本書は、鬼海氏が照らし出した、人間という存在の厚みがこもった、写真ならではの表現の力をまざまざと感じさせてくれるに違いありません。
 『強く美しいもの』は、日本近代写真の巨匠、土門拳氏の写真から古代美術、建築や工芸の細部、やきもの、風景の名作を、関連したエッセイとともに編んだ写真集です。
 日本の美を捉えた土門氏の写真というと、ライフワークとなった代表作『古寺巡礼』がよく知られていますが、そうした仕事の背景には、独自の審美眼で日本の美を深く鋭く探究する姿勢がありました。土門氏はこう言っています。「魅かれるモノに魅かれるままにジーと眺める。モノを長く眺めれば眺めるほど、それがそのまま胸にジーンとしみてぼくなりの見解が湧く。要するに余計なことを考えずにただ胸にジーと応えるまで相手をじっと見る。見れば見るほど具体的にその魅かれるものが見えてくる」。先入観にとらわれず、自身の眼差しによって、いかに幅広く対象を凝視したかが伺われる本書は、土門氏の写真美学のエッセンスに触れることができるセレクションだと言えるでしょう。
 ちなみに文庫版で刊行された本書は、土門氏の写真を編んだ6冊目であり、他に既刊として『腕白小僧がいた』『古寺を訪ねて(全4巻)』があり、手軽な価格で土門氏の仕事に触れることができるシリーズになっています。
 『僕とライカ』は、自作解説を付した木村伊兵衛氏の写真とエッセイを編んだ一冊です。
 木村氏は、土門氏に並ぶ日本近代写真の巨匠ですが、その作風は対極的だと言われています。木村氏はこう述べています。「ただシャッターをきるのは、試験管をのぞくのとは訳がちがって、1+2と簡単に行かない、感情、場所、時等のあらゆる条件があらゆる場合において型をかえてせまって来るのである、と言う事は言える」。自身による文章をふんだんに収めた本書からは、時と場所によって自在なカメラワークを操る木村氏の写真哲学とも言うべきものを伺うことができるのではないでしょうか。
 本書に収められた木村氏と土門氏による「光について」という対談では、わかりやすい会話のなかで、日本近代写真を代表する二人の考え方の違いと共通性が浮き彫りになっているのも興味深いところです。
 『カメラ至上主義!』は、夥しい数のカメラを実際に購入し使ってきた赤城耕一氏が、その体験をもとに、写真とメカニズムの関係を綴った一冊です。
 カメラは写真を撮るためのたんなる道具と捉えられがちですが、実際にカメラを手にしてみると、カメラにはそれぞれの持ち味があり、それによって撮るものも作風も変わってくるという経験は、誰しも覚えがあるものではないでしょうか。そうした実感に率直に、このカメラでこういう写真を撮ろうという、普通とは逆の発想で書かれた本書は、通り一遍の写真の入門書とは違って、きわめて実践的にさまざまなカメラとの付き合い方を提案しており、読みすすめるうちに、自然に写欲がわいてくるものになっています。
 高級一眼レフからコンパクトカメラ、デジタルカメラ、そしてコンテストや撮影会との関わり合い方までを等身大で説いた本書は、非常に今日的な写真の道標でもあると言えるでしょう。