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[BOOK REVIEW:新着写真集紹介/nikkor club #190 2004 autumn:104-105]


 『シネ・ロマン』は、ロシア系の両親のもとアメリカに生まれ、ニュー・スクールにてブロドヴィッチに写真を学んだのち、フォト・エージェンシー「マグナム」に所属し、映画のスティール写真家として広く知られることになったイヴ・アーノルドの写真集です。
 映画会社が写真家と契約して、映画の制作過程を写真と文で紹介するという手法が1950年代に生まれましたが、アーノルドはそうした仕事を通して、従来のスタジオ肖像写真とはまったく違った動きのある肖像を撮り、才能を発揮していきました。本書には50年代から80年代までのスターたちの姿が収められていますが、主にページを構成している写真が撮られた50〜60年代は、映画と写真の黄金時代が重なり合った時代でもありました。それだけに、ロケ地やスタジオ、自宅などさまざまなシーンで撮影された写真は、貴重であるだけでなく、今なお独特の輝きを放っています。アーノルドは次のように言っています。
 「長年の経験から、スティール写真家はスターと非常に近しい関係になれることを知った。撮影セットで毎日顔を合わせるおかげで、写真を撮るほうと撮られるほうは信頼関係を築くことができる。そんな近しい関係がなければとても見せてもらえないスターの素顔をとらえるチャンスも生まれる」
 そうした親密な関係から生まれた、マリリン・モンロー、ソフィア・ローレン、オーソン・ウエルズ、マーロン・ブランド、イザベラ・ロッセリーニといった、歴史的なスターたちの肖像とその逸話が凝縮された本書は、映画ファンならずとも惹きつけられる一冊ではないでしょうか。
 『現代語感』は、富山治夫氏による1960年から2004年までの文明批評的なスナップ・ショットを編んだ写真集です。
 「現代語感」というタイトルは、1960年代の「朝日ジャーナル」での連載タイトルとして、あるいは1971年にまとめられた写真集のタイトルとして知られておりますが、今回の写真集はそれらを中心にした再編というわけではありません。と言いますのも富山氏は、「中央公論」「カメラ毎日」「潮」「太陽」といった雑誌で違ったタイトルで、そして90年代の「月刊現代」では「新・現代語感」というタイトルで、シリーズを展開し続けてきたからです。本書に寄せられた文章で、いとうせいこう氏はこう述べています。
 「1960年、岸内閣が日米安全保障条約を成立させたその日、首相官邸の屋根の上でカメラを構えていた富山治夫は、翌年プロとしてデビューし、『現代語感』シリーズで世の中を驚かせることになる。"実際に撮る時間はほんのちょっとですよ"と本人が言う通り、言葉から喚起されるイメージはすでに頭の中に出来上がっており、それが機械を通して現実化されるということなのだろう。その工程を富山さんはなんと45年間もの長い時間続けてきた。すなわち"いつでも時代の中、世界のただ中にいようとし、同時にそれを突き放してみせ"てきた。この富山治夫特有の運動そのものを私たちは『現代語感』と呼ばなければならないのではなかろうか。実際、富山さんはこうも言うのだ。僕が写せば全部、現代語感なんだよ」
 こうした意味で本書は、現在もなお継続中のシリーズの、現時点でのまとめということになるでしょう。じっさい本書には、富山氏がデジタル技術を用いて制作した最近の作品なども収録されており、いささかも衰えを感じさせない制作意欲は、まさに驚嘆に値するものです。
 『涙―誰かに会いたくて』は、アフリカ、中東、中米など世界の紛争地の写真で知られるフォト・ジャーナリストの長倉洋海氏が、涙をテーマに編んだ一冊です。本書には写真とともに次のような文章が収められています。
 「大人はいつも泣かないように頑張っている。でも、泣いたっていい、とぼくは思う。…涙は生きることの証、生きていることへのお祝い。つらいことや悲しいこと、そしてちょっぴりのうれしいことを確認するための儀式の一つ。たくさんの儀式を通り抜け、人は死をやすらかに迎えられるのかもしれない」
 苛酷な戦場などでの写真でも、人間に対するあたたかいまなざしが感じられる長倉氏の写真ですが、具体的な紛争などの文脈を離れて編まれた本書では、そのまなざしがいっそう明確に浮かび上がっているように思われます。涙というシンプルなテーマのなかに、長倉氏の人間に対する深い思いがつまった、珠玉の写真集です。
 『カメラ常識のウソ・マコト』は、『オーディオ常識のウソ・マコト』の著者でもある千葉憲昭氏が、デジタル技術によって大きく変化しつつあるカメラとのつきあい方を、一般の消費者の視点からわかりやすく説いた一冊です。
 写真の入門書では、技術面と表現面が分けて捉えられていることが多いのですが、本書ではその両面を連続したものとして扱っており、たいへん実用的な知識が得られるようになっています。加えて、さらに一歩踏み込んで鑑賞時の心理にも触れており、よい作品とは何かという、とかく曖昧になりがちな問いにも、可能な限り明快な解説がなされてるのは画期的だと言えるでしょう。現在がデジタル技術による変革期であることを活かして、写真のさまざまな知識を改めて洗い直した本書は、ビギナーから上級者までの幅広い層に一読の価値があるものになっています。