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[書評:万華鏡のように魅力的な森山大道を描き出した新雑誌・『coyote No.1』/日本カメラ2004年10月号:133]


 スイッチ・パブリッシングから新雑誌『coyote』が創刊された。読者に向けて、編集長が巻頭で次のように述べている。
 「人はどうして旅を欲するのだろう。たいていのものはいまここで手に入るというのに、ここではないどこかを求めるのはなぜか。移動の先に、いったい何を見たいというのだ。誰と出会い、何を忘れたいというのだ。…旅の数だけ人は境界線を越えることができる。その荒野へ、新しい冒険譚『コヨーテ』の一歩。」
 創刊号の特集は森山大道。森山を写真やインタビュー、エッセイ、コラボレーションなどで描き出しているのは、ホンマタカシ、瀬戸正人、鈴木理策、大竹昭子、大竹伸朗といった豪華な顔ぶれ。森山自身も取材される対象としてだけでなく、文章の書き手としても登場している。ページを捲るたびに、さまざまな角度から照らし出される森山は、まるで万華鏡のように魅力的だ。そしてこの万華鏡は、どこか懐かしく、既視感に溢れている。
 それはおそらく「ここではないどこか」が具体的には何も指すことのない隠喩であるように、『coyote』で描かれているのが、旅の隠喩としての森山大道という物語だからだろう。この意味で、ホンマが撮った、並べられた三枚のバットそれぞれに写真が浸されている森山の暗室のカットは、ホンマならではのユーモアが込められていると同時に、隠喩としての森山大道を象徴するかのようで、とても印象的だ。なぜならそれは、現実の暗室では絶対にありえない、物語的なシーンだからである。
 創刊号だけを見て方向性を語ることはできないが、こうしてこれまでになかったような形で写真や写真家の物語を描き出している『coyote』が、これからどのようなイメージやファンタジーを見せてくれるのか、とても楽しみだ。