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[書評:写真によってダイレクトにつながれている放浪人生・デイヴィッド・ダグラス・ダンカン『Photo Nomad』/日本カメラ2004年6月号:109]


 1916年に生まれたデイヴィッド・ダグラス・ダンカンは、18歳の誕生日に妹から39セントのカメラをプレゼントされた。そのカメラで最初に撮った写真が、アメリカで手配中の凶悪なギャングだった。39セントのカメラが、ダンカンを文字通り"Photo Nomad"(写真放浪)に誘うことになったのである。
 冒頭にある、"私の20世紀"という文字とともに、雲から刺す陽光に向かって悠然と飛んでいく鳥の写真が収められている見開きのページが象徴しているように、本書はダンカンが写真とともに放浪した20世紀を集大成したものである。『ナショナル・ジオグラフィック』誌や『ライフ』誌での活躍、朝鮮戦争やベトナム戦争での人間味のあるレポート、親交があったピカソの私生活を捉えた写真など、誰もがどこかでダンカンの写真を目にしたことがあるに違いない。464ページものボリュームで編まれた本書は、もちろんそれらの写真を網羅しているものの、いわゆる回顧的な写真集というわけではない。ダンカンは66年に『Yankee Nomad』という本を出版しているが、その続編の改訂新版のような趣の本書は、自伝的なフォト・エッセイともいうべきものだろう。
 社会的なモチーフを多く扱いながら、その写真を紡いだものが自伝になるということ、"20世紀"と"私"が写真によってダイレクトに繋がれているような放浪の人生は、"私"と"写真"がかぼそく繋がっている今日では、いささか想像しがたいものかも知れない。だが、本書は確かにそういう時代と生があったことを示している。ダンカンは「フォトジャーナリストとしての人生に授けられた五つの贈り物」のひとつとして、妹から贈られたカメラとともに、幸運の星を挙げている。ダンカンを照らし出した幸運はなるほど数多いだろう。だが、なかでも最も大きな幸運は、これほど多くの驚くべきドラマティックな場面をくぐり抜けつつ、20世紀を生き抜いたことではないだろうか。なぜならそれによってこそ本書は、生きられた物語として輝くことになったからである。