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[書評:映像によって新たなイメージを喚起する都市論・押井守(監修)『TOKYO VEIN(東京静脈)』『TOKYO SCANNER』(DVD)/日本カメラ2004年5月号:101]


 人はそれぞれに異なった都市というイメージを持っている。例えば、電車・車・徒歩など普段用いる移動手段の違いによって、人は頭のなかにそれぞれの地図を思い描いているに違いない。都市というものは視点の違いによって、まったく異なったイメージを浮かび上がらせるのである。
 『TOKYO SCANNER』は、タイトル通り上空から東京をスキャンするように撮影したDVDである。海ほたるからスタートし、ズームイン・ズームアウトを繰り返しながら、浅草、井の頭公園、田園調布、渋谷、新宿、お台場などをめぐって、六本木ヒルズ森タワーへと向かう、ブレのない高画質なハイビジョン映像は、普段見慣れているはずの場所を、絶対に普段は見ることのできない視点から提示しており、とても新鮮だ。20分の作品だが、映画のオープニングを観ているような感覚で、あっという間に時間が過ぎていく。特典映像として、もとになった映像が40分収められており、こちらはのんびり眺めていても心地よい。
 『TOKYO VEIN』は、一転して東京を地面より下、神田川から撮影したDVD。高速道路、鉄道高架、雑踏などの風景をゆるやかにめぐっていく映像もまた、普段見ることのない東京であり、隅田川に抜ける最後のシーンでは、原体験の記憶から現実に戻ってきたような不思議な感動すら覚える。3面のパノラマと地図の映像で構成されているが、マルチアングルに対応しているので、切り替えてそれぞれの画面のみを楽しむこともできる。いっけん中央の映像が一番面白いように思えるが、実際に切り替えてみると右側・左側の映像も別のリアリティがあり味わい深い。
 このふたつのDVDを監修したのは、『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊』、最近公開された『イノセンス』などで知られる押井守。これらのDVDは、ひと頃流行った抽象概念をあれこれとアレンジする都市論とは一線を画した、具体性を持ったリアルな映像によって新たなイメージを喚起する都市論とも言えるだろう。