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[書評:過去の日本の姿をファインダーを通して直視する・安島太佳由『日本の戦跡を見る』/日本カメラ2004年4月号:109]


 『日本の戦跡を見る』は、写真集『東京痕跡』『日本戦跡』、著書『日本戦跡を歩く』などで知られている、戦争遺跡の取材をライフワークとしている安島太佳由が、ジュニア新書というなじみやすい形で出版した一冊である。
 戦跡とは何か。モニュメント化されている広島の原爆ドームや長崎の浦上天主堂聖人像や、大きな軍事施設跡などよく知られたものもあるが、いざ改めて考えてみると、なかなか明確なイメージが浮かばないものではないだろうか。著者は、それを次のように定義づけている。
〈実際に戦闘があった跡や被災地に限らず、軍関係の建物、軍事施設、兵器などを生産していた軍需工業、それに戦争遂行のための精神的側面に至るまでの、戦争全般にかかわるものを広い意味でさしています〉。
 戦後50年目にあたる1995年からはじまったという、安島の戦跡を訪ね歩く旅とはそれ自体が、戦争とは何か、戦跡とは何かと問いかけ、答えを探っていく、いわば考古学的な作業だったに違いない。著者は「はじめに」でこう述べている。〈「戦跡」という地味で目立たないものに目を向け、過去の日本の姿をファインダーを通して直視し、戦争について考えていきます〉。これは逆に言えば、地味で目立たないものを探っていくことで、ようやく戦跡というイメージが露わになってきたということだろう。
 本書に収められた写真には、大砲などいかにも戦跡らしいものもあるが、例えば、住宅地のなかにあったり、子供たちの遊び場になっていたりする掩体壕などの、あまりに周囲に溶け込んでしまっている風景には驚かされる。よく、写真は見えないものは撮れないと言われるが、見えにくいものの見えにくい姿を見せてくれるのも、また写真だろう。こうしたことを気づかせてくれる本書は、もちろん大人も見るべき労作である。