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[書評:JTB『旅』最終刊号/日本カメラ2004年2月号:89]


 1924年(大正13年)に創刊された『旅』が、2004年1月号をもって79年の歴史を閉じた。
 創刊号では田山花袋が巻頭を飾り、57年の松本清張の代表作「点と線」の連載をはじめ、執筆陣には水上勉、檀一雄、開高健などが名を連ねた同誌は、旅行と文学を繋ぐ大きな役割も果たしてきた。また、それだけでなく、写真にとっても重要な場になっていたと言えよう。最終号を見ても、鉄道写真界の第一人者である真島満秀がモノクロ・ポジフィルムで撮り下ろした叙情豊かな力作「終着駅」や、関川夏央の文に気鋭の現代写真家伊奈英次の写真が付された「オホーツク発、銀河行き」、竹内敏信、南伸坊、徳光ゆかりが審査員をつとめる「旅行写真賞」の発表などが収められており、写真表現にも力が入っていたことが伺われる。本誌の読者にも、『旅』の終刊を惜しまれる方は多いのではないだろうか。
 出版不況が言われて久しいが、同誌もその影響を免れることはなかった。73年をピークに出版部数は長期低落傾向が続いていたという。さまざまな土地や交通の情報も少なく、旅行が生活のなかの一大行事であり、新鮮な経験を与えてくれた70年代に比べると、現在は旅の意味合いも大きく変化した。それも含めて考えるならば、逆に、よく持ちこたえたとも言えるだろう。いずれにせよ、伝統ある雑誌であった『旅』の終刊は、時代が変わったことを感じさせずにおかない。
 唐突に終刊する雑誌も多いなか、『旅』の終刊号は「終着駅から始まる旅」という特集が示しているように、入念に準備されたことが伺われるものであった。老舗旅行雑誌の威厳を保ったままで、時代の使命を終えたのはさすがだと言うべきだろう。