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[プレビュー:しなやかで官能的な、想像する手・『ヨハネス・イッテン―造形芸術への道』/日本カメラ2004年2月号:219]


 「素描するイッテンの手」を見ていると思い出す写真がある。近代写真の父と言われたアルフレッド・スティーグリッツがジョージア・オキーフの手を撮ったシリーズだ。そこに共通しているのは、指先にまで意志が通っている強かさを感じさせながらも、しなやかで官能的ですらある、創造的な手であることではないだろうか。

 スイスの造形作家であり、バウハウス初期ワイマール時代の指導者のひとりでもあったヨハネス・イッテンは、理論家としては日本の戦後の美術教育界でよく知られているものの、実作品が紹介されたことはほとんどなかった。それゆえ、ドイツ・スイスからの国際巡回である、教え子の作品・資料など約200点を通して教育家としての実像を検証した第1部「造形芸術への道」に加え、日本独自企画の、大半が日本初公開となる実作品約80点を紹介する第2部「ヨハネス・イッテンの世界」と、水越松南や竹久夢二など日本人作家との関係を作品・資料約70点でたどる第3部「ヨハネス・イッテンと日本」から構成される、今回の『ヨハネス・イッテン−造形芸術への道』展は、独自な思考の全貌を感じることができる大規模な展覧として期待されるものである。

 イッテンはこう言っている。「ある形態を描くときの手つきは、その形態の運動を逐一反映していなければならない」「生命あるものはみな、人間に対し、運動という手段を通じて自身を明かす」。近代性を合理的なイメージで捉えがちな現代の私たちには、この言葉はいささか神秘的にすら響くかもしれない。しかし近代性とは、そもそも見えないものの探究として萌芽したものでもある。そして、手はその神秘性に触れるための重要な通路だったのだ。同展は、創ることと離れてしまった私たちの手を、改めて捉え返す貴重な機会になるに違いない。

ヨハネス・イッテン ―造形芸術への道
Johannes Itten ―The Ways to Reach Art
日本ではじめてのイッテンの回顧展
イッテンの作品80点
バウハウスやイッテン・シューレの生徒たちの作品200点
竹久夢二など関係のあった日本の作品・資料70点
会期:2004年1月14日(水) − 2月29日(日)
会場:東京国立近代美術館 企画展ギャラリー(1階)