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[撮るための単なる道具ではなく、そうした夢を運んでくれる機械:那和秀峻『名機を訪ねて』/日本カメラ2003年12月号:97]


 本書には、「時代を画する新しい機能を持ったもの、絶大な人気に支えられたもの、ロングセラーとして作り続けられたもの」という基準で選ばれた、1950年から81年に発売された27機種のカメラが収められている。
 それらの機種が現役で発売されていた時代にカメラに興味を持った読者にとって、本書は非常に感慨深いものであるに違いない。カタログや店頭で何度もカメラを見つめ、そのカメラで撮れるであろう写真を想像し、悩みに悩んだ末に購入する…、ここに収められているのは、撮るための単なる道具ではなく、そうした夢を運んでくれる機械でもあった時代のカメラだからである。的確に魅力を説いた那和氏のわかりやすい文章はもとより、そこに織り込まれたメーカーの担当者の話や、実際にそれぞれのカメラを使っていた写真家の声、そして飯田鉄氏による愛情溢れたカメラの写真は、そのような夢をくっきりと思い起こさせてくれるだろう。
 現在もカメラが夢を運んでくれる機械であることには変わりがない、と考えることはできるかもしれない。だが、フィルムを巻き上げることもなく、巻き上げられるフィルムすら必要なくなりつつある現代のカメラが見せてくれる夢は、驚くほど短い。カタログを見つめる間もなく、陳腐化していく。とすれば、やはり、本書が扱っている20世紀後半のカメラというのは、とりわけ日本人にとって感慨深い、時代を象徴する独特のモノであったと言えるだろう。
 この意味で本書は、名機の記録であるだけでなく、夢の記憶を収めた貴重な書物でもある。その夢を共有した世代はもちろん、それを直接体験することのなかった若い世代にもぜひお薦めしたい一冊だ。