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[現代に深く影響した映像テクニック・ヒッチコックのオブセッションとアート:『汚名―アルフレッド・ヒッチコックと現代美術』/アサヒカメラ2001年6月号:128]


 二〇世紀は映像の世紀だと言われてきた。今日では、改めて声高に言われることは少なくなったが、それは、映像が重要ではなくなった訳ではいささかもなく、より深く私たちの日常に映像が浸透してたからにほかなるまい。
 私たちの無意識や感受性が、いかに映像的なものによって形作られ、支配されているかを、日常的な光景の中でスリリングに描き出したのが、アルフレッド・ヒッチコックの映画だろう。ヒッチコックの映画にみられる、覗き、パラノイア、フェティシズムといった主題は映像的な感受性の最たるものであるが、映像的なものによってありふれた日常が瞬く間に破綻していくストーリー・テリングもまた、私たちの無意識を鋭く照射していると言っていい。
 ヒッチコック映画に影響を受けた現代美術作品を集めた『汚名―アルフレッド・ヒッチコックと現代美術』展は、ヒッチコック映画によって照らし出されているそうした私たちの感受性や無意識に、改めて気づく契機を与えてくれる展覧会である。
 シンディ・シャーマンやヴィクター・バーギン、ジョン・バルデッサリといった写真表現の文脈で知られている作家も出品しているが、この展覧会においては、ヒッチコックの映画の引用という側面だけでなく、作品がまたヒッチコックの映画を読み解くためのテキストでもあるということが浮かび上がっているのが、とても興味深い。