texturehometext archivephoto worksaboutspecialarchive 2ueno osamu

[映画論から現れてくる撮影とフレーミングの力学と世界への関係性:パスカル・ボニゼール『歪形するフレーム』紹介/アサヒカメラ2000年3月号:182]


歪形するフレーム―絵画と映画の比較考察  映像、あるいは映像論という言葉が、話題にのぼらなくなって久しい。しかし、だからと言って、映像が私たちの社会や文化の中で重要でなくなったということでは、むろんないだろう。文学が私たちの感覚の隅々まで浸透したとき逆に、文学論が語られなくなったように、今日、映像論が語られなくなったのは、映像が私たちの感覚の奥深くにまで浸透した証左であるに違いない。

 したがって、道標となるような映像論が真に必要とされているのは、いつにもまして今の時代なのだと言えよう。そして『歪形するフレーム』は、そうした道標になる資格を充分に備えた一冊である。

 具体的な映画や絵画をとりあげ、バルトやドゥルーズ、ヴィリリオなどの主要な現代の映像論に言及しつつ、鋭い切れ味で論を展開するボニゼールの文章は、それ自体が魅力的であると同時に、難解に思われた映画や映像論への、優れたガイドラインにもなっている。この意味で本書は、副題が「絵画と映画の比較考察」となっているものの、広く表象文化を視野に収めて書かれたものであると捉えてよいだろう。

 そうした視野で書かれているがゆえに、しばしば言及されている写真についての考察も、たとえば次のように、じつに明晰であり、わかりやすい。

 「(写真術は)機械的な再生装置として、類似するイメージを多様なものにし、それを安価にし、瞬く間に無意味なものにしてしまう」「スナップ写真が定着させ、後に映画が再生産することになる運動は、バロックやロマン主義者たちが見た増幅や強調や壮大さともはや何の関係もないものになる」

 現在、社会や文化の関心は、いわゆるニュー・メディアに移行しているようにみえる。だがいつの日も、新しさをもたらすのは、その背景にある概念である。本書は、表象文化における新たな概念を捉えるための、必読書と言えるだろう。